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採用ブランディング【第3回】すぐに他社事例に飛び付きたくなる「わな」

2018年04月20日

■人が集まる=成功ではない

 「何か他社でいい事例ありませんか」――。いろいろな企業でよくこのような質問を受けます。そこに隠れている重要なエッセンスもありますし、それを自社に応用したくなる気持ちもわからなくもないので、成功した事例をお話しすることにしています。ただし注釈付きです。

 多くの場合、「採用における成功例」を行うことで「人が集まった」と思っているのかもしれませんが、採用ブランディング的に考えると、一過性の人集めほど意味のないものはありません。なぜなら企業にとって(正社員の)採用とは、ともに企業目的(理念)をかなえるための「同志」を採用することにほかならないからです。人だけ集まったその時は人事的に楽かもしれませんが、のちにほとんど辞めてしまう「ザル採用」では意味がありません。

 しかしこのザル採用、かなり多くの企業が陥りがちな「わな」でもあります。原因は、人事や採用担当者の評価が「採用人数」のみになっていることです。人数で評価されるのであれば、担当者が人数を追い求めるのは当たり前。その採用人数が厳しくなればなるほど、ひとまずなんとか人数を満たそうと思うでしょうし、そうであれば、母集団の数がほしくなります。しかしどの企業も母集団集めは年々難易度を増していますから、「人が集まる事例」=「特効薬」と考え、母集団の数をほしがるという構造ができ上がっていると思います。

■その手法は、自社にとって必然か

 採用の成功を「同志を採用すること」つまり、「すぐに辞めず、理念に共感し、将来の活躍人材になり得る人を○人採用すること」と定義したとしましょう。その上で、成功事例を見ていく必要があります。そしてその観点で見た場合、事例の成功要因には、2つの見落としてはいけない重要なポイントがあるのです。

 まず1つ目は、「その事例が採用コンセプトに沿っているか」です。たとえばある企業が求職者の旅費を負担する「ハワイ面接」で話題になり、例年よりも人が多く集まったとします。しかし、その事例を自社が実践したからといって、効果があるかどうかは別問題です。まず確認すべきは、その「ハワイ面接」がその企業の採用には本当に必要なものであり、また自社にそれを転用しても効果が見込めるか、ということです。単に話題性を狙うのであれば、すでに二番煎じのためニュース効果は薄いですし、ハワイに支社も支店もないのに、旅費負担のハワイ面接をしても、なんの必要性もありません。

 つまり金額をかけたわりには、効果が出ない(=自社の理念に共感した人材が採用できない)可能性が高いということなのです。ほかにも、とある企業がインターンで優秀だった人を海外研修という名で海外へ連れて行ったのですが、軒並み内定を辞退されたという話を聞いたことがあります。

■自社の資源でその採用フローをやりきれるか

 2つ目のポイントは、仮に他社事例が自社の採用コンセプトに沿ったものだったとして、自社の資源でそれをやりきれるかという点です。たとえば、私がサポートした企業に、家系ラーメンで急成長を遂げている株式会社ギフトがあります。ここでは「家系を世界への贈り物に」という採用コンセプトを掲げ、「ラーメン説明会」を開催、自社のラーメンをその場で調理し、参加者に食べてもらいながら説明会を行うという取り組みをしています。自社の看板商品であるラーメンをまずは食べてもらい、そして説明を行う。ちなみに説明が終わった後は「海外戦略を作る」というワークショップを行い、それぞれ参加者に発表してもらっています。

 事例だけ聞くと、自社でも商品を変えれば真似できそうですが、現場の協力が必要ですし、準備にそれなりに時間もかかります。ギフトには現場で培った「手際の良さ」が強みとしてあるのでそれが可能ですが、果たしてこれを自社でやりきれるかという考えを念頭に置く必要があります。中途半端に終わっては、求職者に伝わる魅力も半減します。

 他社の成功事例だけ抜き出して、それを一気に真似をしていく流れはどの時代でもありますが、それでは結局何の差別化にもなりません。差別化されていないものは、自社の独自の特徴は伝わりませんから、短期的な効果はあっても持続性はありません。

■答えはいつも自社にある

 究極的に差別化するにはどうすればいいのかと考えると、他社のことを先に考えるのではなく、自社の強みを追求し、その土俵で戦っていくべきです。前述のギフトは年間数千万円の採用費をかけても新卒も中途も採用できなかった過去から、自社の強みを徹底的に掘り下げ、ほしい人材像を明確化し、採用フローを構築したことでコンスタントに採用できるようになりました。「自社の強みを掘り下げ」、その「強みを整理」し、「採用フローも構築」したあとで、確かめ算的に、「他社の動きを見る」。この流れに微調整を行い、ほしい人材像にしっかりアプローチできる自社なりの方法を確立していけばいいのです。

 市場ばかり見ると、そこから答えを探しがちになります。「今の学生って大手志向だから、給与は高いほうがいいよね」「休みは多いほうがいいよね」というざっくりとした市場感覚のみで採用を構築していれば、自ずと他社と変わらない採用方法になってしまうのです。効果が出なければ、また効果のある他社事例を参考にまねるのみ。これでは永遠に採用できるようにはなりません。成功の答えは、市場にはありません。まして他社にもありません。答えは常に、自社の中にあることを忘れてはいけないのです。

深澤 了
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