コラム

人事 / 採用 / 採用ブランディング

採用ブランディング【第5回】自社「らしくない」人を採用するのは正しいか?

2018年05月21日

■「らしくない」人を入社させると不幸になる

 4月25日のダイヤモンド・オンラインで「メガ銀が『銀行員らしくない』新卒採用を重視、銀行も"銀行離れ"」という記事が掲載されました。詳しい内容は割愛しますが、これまでの内定者を分析し、それとは違う個性を持った学生を採用しようとしていることを報じ、「"みずほ"らしくない人に会いたい」という採用パンフレットの写真も記事には掲載されています。これまでの内定者の傾向を分析し、「自社らしくない」人を採用して、企業風土を変えようとする人事部の意向はよくわかります。そして銀行という保守的な業界にあっては、かなりの勇気だとも思います。

 しかし、社内には「自社らしい」人がたくさんいます。今までにいない異分子を採用すると、現場でのぶつかり合いやミスマッチ、最悪、離職も増えるかもしれません。その軋轢(あつれき)は織り込み済みなのだと思いますが、採用した人たちのほとんどは、まずは現場に配属されるでしょうし、先輩や上司は、従来の銀行の風土にマッチしている人なのですから、現場の手間もかかるでしょう。そういう生きのいい新人を歓迎する先輩、上司のいる部署なら、配属される新人も安心ですが、人間は異分子を嫌がる生き物です。そう簡単にはいかないような気もします。

■経営学として見れば正しいが

 経営視点から考えれば、現状を打破するために、人材採用をうまく活用するというのは必然でしょう。これまでの企業風土を手っ取り早く変えるには、社内の人間を変えようとするよりも、異分子を入れ、組織にあえて軋轢を起こし、一気に変えていく。マクロの視点で見ればその通りです。また、経営学でイノベーションを起こすには、既知のものとは全く異なる「別の知」を組み合わせることで、新たなビジネスモデルを生み出すとされています(※)。

 問題は、その大きな採用方針を打ち出したあと、自社の体制が追いつかせることができるか、という点です。まったくの異文化の人間を入社させるということは、これまでの人間にとって居心地は良くないでしょう。これまでほんの少し説明すればよかったことを、「なぜそれをやる必要があるんですか?」「こっちの方がしやすくないですか?」なんて、面倒くさい質問を投げかけられるかもしれません。これまでの企業風土と異なる人を入社させるわけですから、社内にもその方針、背景を徹底させておく必要があるでしょう。そうでなければ、現場も疲弊し、新入社員もバタバタと辞めてしまうかもしれません。これでは採用の意味がありません。

※参考文献 「世界の経営学者は今何を考えているのか 知られざるビジネスの知のフロンティア」(英知出版)

■自社らしさの根幹は理念にある

 現場として大変になるという以前に、もっと根本的で重大な問題があります。経営学でよくいわれることは、理念、戦略、現場と縦の一貫性のある組織が強いということです。

 では理念とは何なのでしょうか。それは、企業が事業活動を行う目的そのものが書いてあると理解すればいいでしょう。何のためにその事業活動を行うかの言語化です。そこには創業者やその後の経営者の「価値観」そのものが入っています。つまり、企業文化のルーツがそこに書いてあり、自社らしさの根幹はここにあるのです。そうであるならば、理念が変わらない限り、企業文化の本質は変わりません。この企業文化に理解、共感してもらった上で、前述の記事のようにその学生のスキル的な側面を加味した採用を行っているのであれば、ある程度安心です。

 しかし、理念(=文化)への共感なしに、今学生が持っているスキルのみで採用するのであれば、ハイスペック人材を求める中途採用に近くなります。また、スキルのみで採用すれば、文化に合わず、その人間のスキルを生かすことも難しくなります。だから離職につながりやすくなるのです。そもそも学生を持っているスキルで見極めて採用する、ということ自体、かなり上から目線の採用です。これは大企業かる知名度のある企業だからこそできることでしょう。

■スペックのみで選んでも企業の未来は開けない

 しかし、多くの企業にとって、採用とはこうした「見極める」採用です。なぜか求職者が集まらない企業も、集まることを前提に「見極める」採用を行いがちです。

 そもそも採用とは何なのでしょうか。自社の理念(=目的)を達成するのが企業であるならば、その理念に共感する同志を採用する(特に正社員採用)のが本筋でしょう。今、お店で人が足りない、とかそういう次元の話では本来ないはずです。しかも経営学で理念、戦略、現場の一貫性をいうのであれば(たくさんの事例から導き出されている公式のようなものですし)、採用時点から理念共感している仲間を迎え入れることがいちばん効率的なはずです。

 だからこそ、採用して理念教育を行うのではなく、採用フローを通して理念教育を行えばいいのです。そうすれば賛成してくれる人は勝手に集まるし、理念に共感できない人は離脱します。

 この場合の離脱や内定辞退は後々のことを考えれば企業側、求職者双方にとってメリットがあります。理念はその企業独自のものです。同じ「顧客満足」という理念の言葉があったとしても、A社とB社では全くその意味は異なります。つまり理念を土台に採用することで、どの企業も差別化できる可能性があるのです。

 だからこそ採用ブランディングは知名度も規模も関係なく効果を出せる。求職者のスペックだけ見ていても、採用の可能性、まして企業の未来は開けないのです。

深澤 了
​​MENU