企業はいよいよ国際標準である「社会的責任の手引」(ISO26000)を使いこなして、慈善活動的CSRから本業CSRへ転換し、ポーター教授らによる社会課題と経済価値の同時実現を狙う競争戦略としての「共有価値の創造」(CSV)も織り込んでいく必要があります。
また、最新の国際的な共通言語であるSDGs(持続可能な開発目標)を使いこなさなければなりません。
さらに、企業は、投資家に対してもESGを重視してどのように持続的に価値を創造していくかという「ストーリー」を語り、メディアをはじめ関係者と良い関係(リレーションズ)を築く本来的な意味の「パブリックリレーションズ」が重要です。わかりやすくするため「三方よし」の考えも使い、「隠徳善事」では伝わらないので「発信型三方よし」として理解していきます。
筆者の31年の行政経験と9年の企業経験を活かし、「これならわかる共有価値創造とサステナビリティ経営の理論と実践」という実践的な角度で皆様と考えていくサイトです。地方創生もCSR/CSVの実践として紹介していきます。
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層の関心にも答えていきます。


(※)CSR企業の社会的責任: corporate social responsibility   CSV共有価値の創造:creating shared value
ISO国際標準化機構: International Organization for Standardization   SDGs持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals

笹谷オリジナルコラム:

経営感度を磨く社会の読み方<第20回>
「かかあ天下」という「協創の鼓動」

2017-11-28 08:35

ユネスコの世界文化遺産は人類全体の遺産として、次世代のために保護・保存して残すべき「顕著な普遍的価値」があるものです。だからこそ、これに登録されることは優れたコミュニティの文化的アイデンティティの象徴なのです。
誇るべきものはこれに登録されたものだけに限りません。国宝などのほか、自然、歴史、まち並み、文化・芸術を見直しましょう。
2015年度、新たに「日本遺産」認定の仕組みができました。そして同年4月、全国各地の有形無形の文化財を地域やテーマごとにまとめた18件を、文化庁が初認定しました。
今回は世界遺産と日本遺産の両方を組み合わせた事例から明日の日本の在り方を探ります。
 

世界遺産を核としたモノづくり(群馬県富岡市)

 世界文化遺産に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、日本近代の技術の伝承と世界との交流が評価されています。もともと養蚕農家と絹糸産業の集積で、産業クラスターの「元祖」的存在。最近の言葉では、一次・二次・三次産業の集合による「六次産業化」や、産官学の連携の成果といえるでしょう。
 富岡製糸場の建設では、当時大蔵省に勤務していた渋沢栄一翁が大きな役割を果たしました。彼は埼玉・深谷の養蚕農家の出身で、フランス留学で生糸を学び、富岡製糸場の建設計画に参画します。その後、日本資本主義の父といわれるような活躍をしますが、『論語と算盤』(角川ソフィア文庫2008年、原著は1927年忠誠堂発行)を著すなど、「社会対応力」を重視していたことも注目されます。
 富岡製糸場が世界遺産に登録されたのは2014年6月。2014年度の入場者数は約133万人超と、前年度(約31万人)の4倍以上に達しました。富岡市ではこれを核に、産業・観光振興と人材育成を、産官学の協議会で推進しています。
 このような場合に市の政策の動きを理解する方法の一つが、予算案を見ることです。2015年度当初予算(案)では、「世界遺産にふさわしい日本一のまちづくり」という題名で、関連予算として繭と生糸のふれあい体験事業、養蚕振興と六次産業化、地域資源「富岡シルク」の振興などの項目があり、いずれも関係企業の参加を仰いでいます。
 さらに市役所では一係につき一つ以上の改善提案を推奨する「一係一提案」を実施。その結果、128件に上る予算合理化の提案がありました。地方創生に向けた市の意気込みが感じられます。
 世界遺産ブランド活用によるビジネス創出の例では、富岡製糸場の入場券にシンボルキャラクター「お富さん」の絵が描かれ、その裏面には、LINEスタンプを購入するとその売り上げが日本の森林の保全活動に使われる仕組みが紹介されていました(2015年8月来訪時)。一般社団法人フォレストック協会と連携していて、この仕組みにより世界遺産の維持管理に当たる自治体、環境関連団体、LINEスタンプの運営企業、入場者の間でWin‐Winの関係が生まれています。
 
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 市には組織として「富岡市世界遺産部」があり、富岡製糸場保全課・富岡製糸場戦略課のほか観光おもてなし課まであり、アイデアをひねっているのでしょう。
 

日本遺産制度で地域資産の棚卸しを!

 この世界文化遺産に対し、「日本遺産」制度は歴史的な価値や意義をわかりやすく伝えるストーリー性があり、その魅力を海外にも発信できることを基準として、文化庁により選定・発表されるものです。今後、地方創生の有力な武器になる制度です。地域の観光振興につなげるねらいもあり、東京五輪が開催される2020年までに100件程度に増やす予定だそうです。
 次のような特色ある選定が含まれています。
●福井県「海と都をつなぐ若狭の往来文化遺産群 - 御食国(みつけくに)若狭と鯖街道 - 」
●京都府「日本茶800年の歴史散歩」
●四国四県「『四国遍路』- 回遊型巡礼路と独自の巡礼文化 -」
 

「かかあ天下」のストーリー 女性活躍の元祖

 この第一弾指定の中でも異彩を放つのが、世界遺産の「富岡製糸場と絹産業遺産群」に密接に関連する、「かかあ天下 ---- ぐんまの絹物語 ----」です。申請者は群馬県(代表)、桐生市、甘楽町、中之条町、片品村で、申請によれば、ストーリーの概要は、次のようなものです。
 古くから絹産業の盛んな上州では、女性が養蚕・製糸・織物で家計を支え、近代になると、製糸工女や織手としてますます女性が活躍しました。夫(男)たちは、おれの「かかあは天下一」と呼び、これが「かかあ天下」として上州名物になるとともに、現代では内に外に活躍する女性像の代名詞ともなっているのです。
 「かかあ」たちの夢や情熱が詰まった養蚕の家々や織物の工場を訪ねることで、日本経済を、まさに天下を支えた日本の女性たちの姿が見えてくる、とのことです。
 構成文化財は12件(すべて、ぐんま絹遺産)で、桐生市が白瀧神社、旧模範工場桐生撚糸合資会社事務所棟、桐生市桐生新町伝統的建造物群保存地区、後藤織物、織物参考館「紫」、桐生織物会館旧館の6件、甘楽町が旧小幡組製糸レンガ造り倉庫、甘楽町の養蚕・製糸・織物資料、甘楽社小幡組由来碑の3件、中之条町が富沢家住宅、中之条町六合赤岩伝統的建造物群保存地区の2件、片品村が永井流養蚕伝習所実習棟の1件と、幅広いものです。
 このように、世界遺産に日本遺産のストーリーを加えることで、一層高い説得性が生まれ、その保護・伝承への力が結集されます。
 

NHK大河ドラマ『花燃ゆ』

 この「かかあ天下 ---- ぐんまの絹物語 ----」は、昨年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』でも、群馬県令(今の県知事)になった楫取素彦とその妻・美和(吉田松陰の妹)が絹産業の振興に奔走する姿が描かれていましたので、ご覧になった方も多いことでしょう。大河ドラマは一年を通じて放送される中で、ドラマというわかりやすい形で歴史を思い浮かべることができます。当時の美和やそれを取り巻く「かかあ」の活躍する姿から、現在につながる「協創の鼓動」を感じました。また、制作過程でも、ロケの地元とドラマ制作関係者や俳優との間で交流が生まれました。
 日本創生・地方創生では、それを担う市民はもちろん、企業人も含めた地元の人が主役です。このドラマは女性活躍の先駆けでした。
 このほか、同じ時代に水戸藩校だった「旧弘道館」など、茨城、栃木、岡山、大分の四県の旧教育施設で構成された「近世日本の教育遺産群 ---- 学ぶ心・礼節の本源 ----」も日本遺産に選定されていますが、みんなで学ぶ時代にふさわしい選定です。
 
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(『月刊総務』2016年3月号より転載)