スタートアップバックオフィス(法務)の始め方

その取引が適用範囲かを確認するには? スタートアップでも問題になりやすい下請法の対応ポイント

弁護士法人堂島法律事務所 弁護士 赤羽 寿海
最終更新日:
2025年06月06日

スタートアップ企業は、それ以外の企業と同様に、市場における取引をその活動の中心とする以上、独占禁止法をはじめとする競争法にも一定の注意を払う必要があります。もっとも、スタートアップ企業は多くの場合、その規模が限定的であるため、成熟期にある企業と比較して、競争の機能を妨げるような行為をしてしまう機会が限られることから、独占禁止法や各国競争法への違反の問題が生じるリスクは相対的に限定されていると考えられます。そこで、本稿では、独占禁止法の特別法・補完法であり、規模が比較的小さい企業にとっても問題になることが多い、下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法といいます)の概要と実務対応のポイントについて解説します。

下請法の構造と適用範囲

下請法は、大まかにいって、相対的に規模が大きい委託事業者が、より規模が小さい受託事業者に対して委託取引を行う場面において、委託事業者が、その優越的地位を濫用して、受託事業者に対して不当な取り扱いをすることを防止し、公正な取引関係を確保するための法律です(なお、下請法の適用のある委託取引における委託事業者を親事業者、受託事業者を下請事業者といいます)。このような趣旨の法律であるため、下請法に規定されているのは、親事業者の義務・禁止行為が中心であり、下請法は主に、親事業者に対する規制として位置付けられるものです。

1. 下請法の適用対象となる取引の要件

下請法の適用対象となる取引の範囲は、(1)取引の内容と、(2)取引当事者の資本金(または出資金の総額)の区分という2つの要件から規定されており、この2要件の両方を満たすことで初めて、下請法が適用されることになります。

まず(1)の取引の内容に関しては、製造委託(物品・半製品・部品・付属品・原材料・これらの製造のための金型の製造の委託のこと。下請法第2条第1項)、修理委託(物品の修理の委託のこと。下請法第2条第2項)、情報成果物作成委託(プログラムその他の情報成果物の作成の委託のこと。下請法第2条第3項)、役務提供委託(建設工事以外の他者に提供する役務の提供の委託のこと。下請法第2条第4項)の4類型の委託取引が規定されており、広範な委託取引がカバーされています。

このうち、実務上特に問題となる点の一つとして、役務提供委託に関して、その対象となる役務(サービス)が、委託事業者が他者に提供する役務に限定されており、委託事業者が専ら自ら用いる役務の委託は、役務提供委託に含まれない(したがって、下請法の適用対象とならない)点が挙げられます。もっとも、役務(サービス)の提供を委託する場合において、その役務(サービス)が委託事業者によって他者に提供される役務(サービス)の一部であるか、または自ら用いる役務(サービス)であるかの区別は、必ずしも明確でない場合があります。

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プロフィール

弁護士法人堂島法律事務所 弁護士
赤羽 寿海

東京大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了。2017年弁護士登録。堂島法律事務所東京事務所所属。大手法律事務所での執務経験を生かし、証券化を含む不動産取引法務、ファイナンス取引法務、M&A法務、再エネ法務を柱としつつ、トランザクション案件から紛争解決まで、スタートアップ企業を含むさまざまな規模・ステージの企業に多様な法的サービスを提供している。

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