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採用ブランディング【第10回】ターゲットの未設定は、人と金をムダにする

2018年08月03日

 個人的には「ターゲット」という言葉は、戦争用語を連想させ、あまり好きではありませんが、マーケティング用語として浸透しているので本稿でも使います。普段の仕事では「いちばん好きになってほしい人」という意味で使用します。

■明確化したがらない企業

 多くの企業はターゲットを明確にすることを避けがちです。もしかするとターゲットのパイ(数)が減ってしまうイメージがあるのかもしれません。では本来、ターゲットを明確化する意味とは何なのでしょうか。

 企業のマーケティング活動では、さまざまな人がかかわります。そのメンバー間で「誰に」「どんな価値をもたらすのか」という共通認識がなければ、各部署、各人の間でバラバラな訴求がなされ、必要以上にムダな予算を投下することになってしまいかねません。逆にいえばこれらが明確化されているだけで、一貫性を保ち、統一された訴求ができることにもつながります。つまり、ターゲットを明確化することの最大の効果は、「メンバー間の目線が合うことで、予算を削減できる(効率的な)マーケティング活動が可能となる」とまとめられるでしょう。

■ターゲットが明確化できていないと気付けない

 では、それを採用に置き換えて考えるとどうなるでしょうか。まったく同じことがいえると思います。「どんな人に来てほしいか」「彼らにどんな価値を約束できるか」は採用において、しっかり決めておく必要があることです。前者はまさに採用基準そのもので、そこから発展してどんな人物像かを決めていけばいいですし、後者は自社の強みを棚卸しすることで、見えてくるはずです。

 しかし、私たちの実感では、経営者から採用担当者へのヒアリング時に「どんな人がほしいですか」と聞くと、ほとんどは具体的にほしい人物像を挙げることはできません。「元気で、素直なら誰でもいいよ」というセリフを何度聞いたことでしょうか(経営者ほどそうです)。採用する側の心掛けとして、それはすばらしいほどの懐の深さを示す言葉であるとは思います。しかし、採用を戦略的に行いたいのであれば、そこでとどまってはいけません。ターゲット像を曖昧にしていることで、実のところ誰が自社に合う人材なのか、気付けないのです。もしこれが明確であれば、出会った瞬間から「うちに入社すべき人材だ」と気付けるかもしれません。そうなれば、口説く準備に入れるかもしれないですし、質問の仕方も変わってくるはずです。

■本当に似た人が来る驚き

 ペルソナレベルまでターゲットを明確化すると、驚くほどそれに似た人が母集団の中に含有することがよくあります。ターゲットを明確化した直後でさえ起こりやすく、「本当に決めた通りの人が来ました!」というセリフを何度も何度も聞いてきました。

 このような効果が起こる構造は実に単純であると考えています。それは採用担当者を始め、採用にかかわるメンバーが「気付ける」ようになったのです。「どんな人がほしいのか」を明確に決めたことで、センサーが働くようになった、としかいえないと考えています。もちろん、ターゲットを明確化したあとで、ホームページやパンフレットの表現を変えたり、説明会での資料や話し方、構成を変えたりしていくことで、設定した人物像の含有率は上げていくことができると考えていますが、明確化した直後に起こる、このような現象は「気付き」以外の何ものでもない、と思います。

 ターゲットを明確化することが、市場にあるパイ(数)が絞られてしまうというイメージはターゲットを設定する意味を完全に読み違えています。ターゲットの明確化は、コミュニケーションしていくための統一されたイメージを創出することが目的で、一貫性のあるコミュニケーションを取り続けるためのものなのです。

■ムダだらけを止めるための明確化

 少々乱暴なたとえをしますが、ターゲットを決めることは漁業に似ています。「マグロがほしい」、もっと狙いを定めて「クロマグロがほしい」となれば、餌やしかけ、設備などクロマグロに対応した準備が必要です。しかし、単に「魚がほしい」となれば、とにかく闇雲に網をしかけるしかありません。そうなると、ある漁船は沖合に近い場所に、ある漁船は遠洋漁業に出かけるかもしれませんが、これは無駄です。船の準備が適切でなければ、魚は死んだり、新鮮さを失うリスクもありますし、漁船の大きさによっては、持って帰れないということもあり得ます。ニーズのない魚や食べられない魚であればリリースするしかありません。つまり、ターゲットを明確化しないということは、単に「魚を取れ」と命令しているに過ぎないということです。単に陸から地引網をしているだけでは、絶対にクロマグロはかかりません。ほしい魚に即した準備をするからこそ、その魚が集まってくるのです。

 ただし、採用が漁業と違うのは、採用した人を自社の中で、しっかりと「生かす」必要があるということです。それができなければただ「泳がせておくだけ」になってしまう。これも経営的に見れば無駄です。ターゲットを明確化しないということは、採用する側の動きそのものも曖昧にしてしまい、無駄だらけの採用活動を強いられてしまうということなのです。

深澤 了
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