業績に効果が出る新しい組織風土改革の進め方

第21回:経営者のための経営理念と組織風土の深い関係

株式会社 カレンコンサルティング  代表取締役 世古 雅人
最終更新日:
2016年10月24日

前回(第20回)の予告通り、今回より数回にわたり、組織風土改革を「経営者の視点」を加えながら、皆さんと一緒に考えていきます。

「経営理念」とは?

経営理念とは、経営書であれば必ずどこかに書かれているもので、おおよそ以下のような内容です。

「経営理念とは経営に対する普遍的な信念、価値観である。また、企業使命や組織の根本的存在理由や意義、経営目的、判断基準を示すものである」と。

図1 経営理念の定義(一般論)

21_philosophy.png一般に、社員にとって、経営理念は自分が何のために働いているのか、この会社は将来的にどのように成長していくのか、どのような会社になっていくのかを判断をするときの基準を示す、重要なものです。経営理念がないと、社員のベクトルの向きが合わなくなってくることはもちろん、会社の存在意義や会社の将来性の喪失等が起こってしまいます。、一般的な経営理念の定義はこのようなものが多いでしょう。

会社によっては、「社是」「社訓」としているところもあり、表現・呼び方はさまざまです。

また、企業の価値観や経営者の志・信条などが文言として掲げられているところも少なくありません。

経営理念が組織に浸透していないと嘆く経営者たち

今回、考えてみたいことは、「経営理念が組織に浸透しない」という悩みを抱える経営者が少なくないということです。経営者たるもの、自社の社員には同じ方向を向いていてほしいでしょうし、組織としての求心力も望むことは極めて自然なことです。

企業によっては、

 (1)朝礼で経営理念を唱和する

 (2)経営理念が書かれた社員手帳やハンドブックを肌身離さず持たせる

 (3)社員研修で徹底させる

 (4)経営理念を作る、見直しに応じて人事評価制度も見直す

など、あの手この手で経営理念を組織に浸透させるために策を講じても、一向に浸透している兆しが見えない、具体的には社員の行動に何ら変化が見られないということもあり、はて......どうしたものか?......と、経営者は嘆くのです。そう、前述した(1)-(4)のようなことをいくら繰り返したところで、経営理念が組織に浸透するわけではないということに、経営者は気づかなければなりません。

これらに気づくことを鈍らせている原因は、経営理念を作るコンサルティング会社や研修会社にあることも多いものです。

なぜなら、「経営理念が組織に浸透されるためには、まずは社員に受け入れられなければならない。そして、組織に十分浸透させ、組織文化に体現させなければならない」と、堂々と言っているからです。それを真に受けてしまう経営者が気の毒でなりません。 さぁ、ここで考えてみましょう。「受け入れられなければならない」という表現です。

普通に考えて、"受け入れるか受け入れないか"は相手(この場合は社員)次第です。はたして、前述の4つの策は、社員が望んでいることだろうか? 経営者や会社側の押し付けになっていないだろうか?...と、こう考えていただきたいのです。

例えば、宗教の世界にも見られますが、根本的に価値観が違う相手に対して、自らの価値観を受け入れるよう促したところで、相手からすれば余計なお世話になりかねません。これは皆さんだって同じでしょう。

「俺の考えはこうだ! お前もそれを受け入れるべきだ」と言われて、いい気分がするものではありません。まして、"社員に受け入れてもらうような経営理念"など作っても意味がないことで、言葉だけ上滑りするような綺麗でカッコよくできた経営理念も社員の心にはとうてい響くものではありません。

経営理念が組織に「定着・浸透」するメカニズムを知る

結論から先に言いましょう。

経営理念が組織に定着・浸透するためには、経営理念単独では成し得ません。図2で示すような、「経営システム」と「組織文化(組織風土)」を同時に考えることが重要です。

図2 経営理念を取り巻く全体関係図

21_zentaizu.png

企業活動は、最終的には業績を上げる成果を出すことです。そのためには、社員の行動や学習が伴わなければなりません。

社員へ動機づけ・判断基準・コミュニケーションのベースを与えるものが「経営理念」です。すなわち、経営理念は社員の意思決定や心理的エネルギーに影響を与えるもので、そこから社員の行動や学習を伴い、業績や成果に結びつくのだという構造を理解しましょう。

しかし、これだけでは不十分で、「経営システム」は仕事の評価としての人事評価制度や、社員への報酬としての給与・賞与などのインセンティブ(報酬)が必要です。

ここでいうインセンティブは、"物質的報酬"と呼ばれるもので、お金や職位などの目に見えるものです。その一方で、経営理念自身は"精神的報酬"ともいわれ、目に見えません。

例えば、社会的な意義や道義が企業活動の源泉であったり、社会貢献を果たす製品を世の中に出している企業に勤めることができる誇りや、人に認められることなどは精神的報酬です。

子供の頃に大病を患い、医学の道を目指す人が高度医療が可能な医療機器を開発する企業に就職したとします。その人は自社と自社製品に誇りを持ち、世の中に役に立っていることが何よりの喜びであると考えるでしょう。このようなものが精神的報酬であり、物質的報酬に比べて際限がないものです。 そして、「組織文化(組織風土)」は、社員へ新しいパラダイムや価値観を与えます

組織風土そのものも目に見えず、かつ会社の歴史をそのまま継承しており、長い時間を通じて形成されたもので、企業の遺伝子といっても過言ではありません。

社員が既に持っているパラダイムや価値観はそう容易に変わるものではありません。

組織風土そのものが、企業のパラダイムであり価値観です。経営理念が、組織を構成する社員一人ひとりのパラダイムと価値観に影響を与えるものでなければ、組織には絶対に浸透・定着はしません。「経営理念と組織風土を一緒に考え、経営理念は新しいパラダイムと価値観を社員に与える。その結果、組織風土として醸成される」と理解しましょう。

小手先の方法論、ツール活用に走っても意味がない!

経営理念が組織に定着・浸透している状態とは、経営理念が「組織文化(組織風土)」の一部になることです。

これは組織風土そのものが、"なかなか変わらない"、 "変えにくい"という特性を持つからです。なぜならば、個人のパラダイムや価値観に起因する認識と思考パターンは、本来、バラバラだからです。変わらない・変えにくいものが根付くということが定着であり、浸透ということになります。

ここで安易な方向に先走ると、経営理念を組織に浸透させるために策を講じると述べたように、変えにくい「組織文化(組織風土)」を変えようとせずに、「経営システム」の構成要素である人事評価制度などを変える、経営理念を社員へ説明するためにハンドブックを作る、あるいは行動規範を作る、理念浸透研修を行うといったことを平気でやらかしてしまいます。

もちろん、これらの仕組みの変更、ツールの作成、研修の実施がダメだとは言いません。やらないより、やった方が多少はマシです。 しかし、それは「社員の経営理念に関する理解が深まる」だけで、本当に腹に落ちたというものからは程遠いものであり、組織風土そのものが変わるわけではないのです。

次回(第22回)は今回の続きをお話します。

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著者プロフィール

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株式会社 カレンコンサルティング  代表取締役
世古 雅人

経歴
【1964年】
三重県生まれの横浜育ち。神奈川県在住。
【1987年】
武蔵工業大学(現 東京都市大学)工学部電子通信工学科卒業。アンリツ株式会社入社。通商産業省(現 経済産業省)管轄の半導体基礎研究所の出向期間を含め、約13年間を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、社内選抜にて経営企画室に異動し中期経営計画策定、情報戦略、組織風土改革等に従事。
【2003年】
株式会社スコラ・コンサルト入社。企業風土改革、組織・業務コンサルティングに関わる。
【2004年】
株式会社ピーエイ入社。経営企画室室長・管理部部長。事業計画策定・IR・各種制度設計と構築を行う。子会社である株式会社UML教育研究所の執行役員/営業本部長を兼任。社内コンサルティングと並行して、社外への経営・組織・業務・プロセスコンサルティングに従事。
【2009年】
株式会社カレンコンサルティングを設立、同社代表取締役。コンサルティング・教育研修・アウトソーシング事業を展開。現場と経営を巻き込んだ新しい『プロセス共有型』のコンサルティングスタイルを提唱している。特にハード面の「業務プロセス」と、ソフト面の「風土改革」の2軸を大切に、大手上場企業から中小ベンチャー企業まで、業界・業種を問わず、現場における業務改善・組織風土改革の変革支援を行う。技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善や変革コンサルティングなどに従事。

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