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サインまでマネジメントするか

2016年09月13日

ファシリティマネジメント(FM)導入期の1980年代後半から、JFMAでは欧米、特に米国に毎年、ときには年に数回、調査団を送っていました。
FMに関心を持ち、向上心にあふれる諸氏が、貪欲にFM先進国のノウハウを吸収しようと訪米した時代です。FMとは何か、ファシリティの範囲はどこまでか等々真剣に議論していました。

現在では、FMの教科書『総解説ファシリティマネジメント』に、FMを「企業、団体などが組織活動のために施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」と定義しています。

また、JFMAの定款ではさらに詳細に、法人の目的としてFMを「企業、団体等が保有又は使用する全施設資産及びそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」と定義しています。

最近では、ファシリティの範囲は広がり、インフラやホスピタリティ等もマネジメント対象とする人もいます。ファシリティの範囲にどこまで含めるのか明確にしろと言われるかもしれません。

FM担当者は自分の業務範囲や専門分野から考えて、ワークプレイスのみを考えたり、あるいは企業不動産管理面のみを考えたりして、FMの範囲を議論するかもしれません。

しかし、皆様が地方公共団体の知事さんや市長さんなど首長になったらどのように考えるでしょうか。
自らの自治体が保有している施設・資産、つまり箱物もインフラもすべてマネジメント対象にするのは当然です。建築だ土木だワークプレイスだとは言っていられません。それぞれの専門家や担当者は、それぞれの専門分野でしか話ができないのでその分野の話で終わらせようとしているだけのことです。
FMは経営なのですから、首長さんや社長さんの立場で考えなければいけないのです。


少々乱暴な話ですが、私はFMの対象範囲はご自分で決めれば良いと考えています。人から言われたからやるのでなく、自らマネジメント対象としてどこまでやるかという気概が必要です。
そんなことがまだわからなかった30年ほど前に、訪米調査で、米国のある銀行を訪れた時のAさんのお話がFMの範囲を考える時に参考になります。前回に引き続きエピソードとしてご紹介しましょう。

◆エピソード‐2

今から30年近く前の1988年に、Aさんは15人ほどのFM調査団で訪米し、世界的に有名なB銀行を訪問しました。
そこで、著名なファシリティマネジャーであるCさんに最初に案内されたのはサイン室でした。そこにはデスクトップ型のパソコンが数台並び、数人の女性がにこやかに出迎えてくれました。

そこで、パソコンで室名やサイン(表示・案内図)などが簡単に作れることを説明してくれました。
そして、サインの重要性についても話され、この地域に建物が10棟近くあり、5000名以上の社員が働いている。チャーンレート(ここでは社員の移動率)は年200%を超える。そのためには、分かりやすいサイン計画が必要であることなど話されました。

そしてさらに、有効なサインがなく社員や顧客が迷ったらそのロス時間はどれほどか、またそのときのイライラ感はどのような悪影響を及ぼすかなどもお話しされました。

また、マネジャークラスの方の移動は多く、時には人事から突然に話があり、次の日には新たに見えるマネジャーのための個室を準備しなければいけない場合がある。そのとき、ドアのサインから室内の家具・什器、アート等のしつらえまで俊敏に準備し、マネジャーをお迎えする必要があることを話されました。
これらの話をあまり理解できなかったAさんたちは、サイン等は外注でいいのではないかと話され、それにはどのくらいかかるかという質問に1週間以内でできると答え、その間、入り口に紙を貼っておくのか、そのような方法はここでは認められない云々というような問答をしました。

すると参加メンバーから、それより設備機械室などを見学したいという要望がでて、ファシリティマネジャーのCさんは少し寂しそうな表情をされ、設備機械室に移動したとのことでした。

その後Aさんは、自らFMの経験をするほどに、説明を頂いたファシリティマネジャーCさんの真意が分かってきたといいます。サインまでマネジメント対象としていたこと、それがどのような影響、効果を与えるかを十分に把握していて、ファシリティマネジャーに必要な俊敏性、時間と品質の関係、満足度とホスピタリティ等々についても十分考慮していたことが分かり、その場でなぜサインの話なのかと思った自分が恥ずかしくなったとのことでした。

サイン一つで、街や都市の価値も決まります。皆様も海外旅行をしたとき、案内サインがいい加減で苦労したことがないでしょうか。日本も国際都市を目指して、最近では、英語や中国語、韓国語など分かり易い表記が増えています。ようやくサインの重要性が分かってきたのかもしれません。
国内の都市でもサインのレベルの差があります。都市の価値やホスピタリティ度がサインによっても影響を受けます。たかがサイン、されどサインということでしょうか。

FMを実践していると、どこまでマネジメント対象とするか迷います。そして、言われたことだけやればいいという考えにもなります。しかし、ファシリティマネジャーはポジティブでなければいけません。 FMで会社を、社員を、人々を幸福な方向に引っ張っていく先導者でなければいけません。

そのためにどこまでマネジメントするか、もう一度客観的な視点で自らの業務を考えてみることも必要かもしれません。

成田 一郎
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