総務の引き出し(人事教育研修)

「103万円を超えてはいけない」は思い込み 「年収の壁」問題における人材マネジメントの再考

大阪大谷大学 人間社会学部 教授 藤原 崇
最終更新日:
2023年06月15日
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3月のこども政策に関する記者発表で、岸田首相が「年収の壁」といわれる問題の解決策の方向性を示しました。この問題は、所得税や社会保険料の関係で一定の年収(106万円、130万円など)を超えると手取り額が減少する「手取り額の逆転」が起こる問題です。その逆転現象を回避するため、特に配偶者の被扶養者となっている女性を中心に就労時間を調整することが、結果として女性の就労抑制につながっているのではないかと指摘されています。岸田首相の示した方向性では、社会保険の適用対象者の拡大、最低賃金の引き上げを行いつつも、手取り額の逆転を生じさせないような支援・補助などの検討が示されました。

企業とパートタイム労働者とのあつれき

手取り額の逆転を避けるため、就労調整を行う問題は過去から各企業でも問題となっていました。加えて、近年は短期間で最低賃金が大幅に引き上げられる一方で、少子高齢化を受けた人材不足も顕在化しており、長時間就労してほしい企業と、何とか扶養対象にとどまりたいパートタイマーを中心とする労働者とのあつれきはより大きくなってきています。

日本商工会議所は4月21日に出した「最低賃金に関する要望」の中で、政府への要望として初めて「企業の人手不足に繋がる『年収の壁』問題の解消を」という要望を盛り込みました。「非正規・パートタイム労働者が、103万円や130万円に届かないように労働時間を調整(就労調整)するケースがこれまで以上に増えている」ことに触れ、「第3号被保険者制度の抜本的見直し」「所得税基礎控除額などの引き上げ」「年収の壁に対する政府による周知・広報」などを要望として掲げています。

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著者プロフィール

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大阪大谷大学 人間社会学部 教授
藤原 崇

メーカー人事や組織・人事コンサルタントを経験。人事戦略から、制度構築、人材育成まで幅広く多業種・数十社の支援を行う。コーネル大学MBA 取得。2022 年4 月より現職、博士(経営学)。

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