総務の引き出し(人事教育研修)

ポイントは「自覚」と「待つ姿勢」 ―― 人材育成において重要なことはビジネスも教育現場も同じ

大阪大谷大学 人間社会学部 教授 藤原 崇
最終更新日:
2023年08月31日
202308f_00

私事で恐縮ですが、筆者は30年にわたる企業勤務を経て、2022年より大学教員としての生活を始めました。ビジネスの世界で仕事を進めることと、教育・研究に専念することの違いに戸惑いつつも、変化に対応しようと試みてきた1年間だったといえます。その経験の中で、特に「人を育てる」ということの意義や方法について、ビジネスと教育の場での違いを痛感するとともに、その大切なポイントに気付けたように感じますので、今回はそれについて述べたいと思います。

ビジネスと教育の場における人材育成の違い

ビジネスと教育の世界での差異の1つ目は「目的の明確さ」です。ビジネスの世界では、個々の人材の育成についてある程度の方向性と短期的な目的は基本的に明確になっています。まず多くの場合は、現在担当している職務について、それに生かすべき知識やスキルを習得して能力を高め、高次の仕事にレベルアップしていくことを目指しているでしょう。その先の将来的なキャリアについては、なかなか明確になりにくいですが、本人も会社も漠然とした方向性を、たとえばマネジメント力を上げ管理職を目指す、専門性を深めていく、といったようなレベルでは考えていると思います。

それに対して、教育の場における学生は、まだまだ未成熟で自己理解も不足しており、自分が進む方向性を見いだせていない場合がほとんどです。もちろん、将来の職業を決め、それに向けて勉強などにまい進している学生も多くいます。ただ大学における教育は、単に希望の職業につけることだけが目的ではなく、ディプロマ・ポリシーに掲げるさまざまな知識・能力の修得や、社会に出るにあたっての人間的な成長も求められます。また、短期的には単位の取得が大切ですが、単位取得という結果だけでははかれるものではなく、どう学ぶのか? 学びを通じて何を得たのか? という点が大切であり、それについては個人差も大きい現実があります。

たとえば、筆者は経営学の担当であり、経営学概論などの授業も担当しますが、そこに参加する学生の目的や動機はさまざまです。民間企業就職を考えており企業の具体的なことを知りたい、教員や公務員を目指しているので社会理解を深めたい、ただ単に単位がほしい……。そういった状況の学生について、個々の授業でも明確な目的を単純には設定しにくいと感じています。

続きは「月刊総務プレミアム」をご契約の会員様のみお読みいただけます。

  • ・付加価値の高い有料記事が読み放題
  • ・当メディア主催の総務実務の勉強会や交流会などのイベントにご優待
  • ・「月刊総務デジタルマガジン」で本誌「月刊総務」も読み放題
  • ・本誌「月刊総務」も毎月1冊、ご登録いただいたご住所にお届け
  • ・ノウハウ習得・スキルアップが可能なeラーニングコンテンツも割引価格でご利用可能に

※掲載されている情報は記事公開時点のものです。最新の情報と異なる場合があります。

著者プロフィール

t_fujiwara(2)

大阪大谷大学 人間社会学部 教授
藤原 崇

メーカー人事や組織・人事コンサルタントを経験。人事戦略から、制度構築、人材育成まで幅広く多業種・数十社の支援を行う。コーネル大学MBA 取得。2022 年4 月より現職、博士(経営学)。

総務の引き出し(人事教育研修)」の記事

2024年04月26日
ベースアップをすると人件費にどう影響する? その仕組みと人件費を管理するための2つの注意点
2024年03月27日
「生成AIは思考力を奪う」は本当? 上手に活用すれば「自分で考える」人材を生み出せる!
2024年02月29日
ジョブ型が広まらない理由は「日本特有の雇用システム」 メンバーシップ型からの転換に必要なこと
2024年01月31日
「企業の目的」ファーストの組織づくりはもう通用しない デジタル時代の今こそ必要な考え方とは
2023年12月27日
人事戦略として存廃をどう決める? 「年収の壁」問題で注目される配偶者手当の必要性と見直し方
2023年11月24日
コスパ・タイパ重視ですぐ辞める……若い社員のキャリアアップに必要なのは「転機」と「4つのS」
2023年10月26日
質・量、2つの側面から考える 今、人事にとって最も重要なミッション「人材確保」の見直し方
2023年09月28日
「総合職は転勤を受け入れる」前提の処遇は限界か 労使紛争になる前に個人と組織の関係の見直しを
2023年08月31日
ポイントは「自覚」と「待つ姿勢」 ―― 人材育成において重要なことはビジネスも教育現場も同じ
2023年07月12日
業績が向上する「人的資本経営」の導入ステップ。人事部門による「実践」の繰り返しがカギに
2023年06月15日
「103万円を超えてはいけない」は思い込み 「年収の壁」問題における人材マネジメントの再考
2023年05月09日
世界の「オオタニ」を生んだ育成方法から学ぶ 企業のキャリア形成支援強化策
2023年04月11日
ジョブ型雇用の本質に似た対応に 「ビジネスと人権」の高まりで迫られる人事管理の変革

関連記事

  • 「働きがいのある会社」トップ企業のハイブリッドワークの形 戦略総務を実現できるデバイスとは? PR
  • コスト削減だけじゃない! 働き方が変わり、コミュニケーションも生まれる「照明」のすごい効果 PR
  • 災害への備えは平時から。企業の防災担当者を強力にサポートする東京都のサービスとは PR

特別企画、サービス