企業はいよいよ国際標準である「社会的責任の手引」(ISO26000)を使いこなして、慈善活動的CSRから本業CSRへ転換し、ポーター教授らによる社会課題と経済価値の同時実現を狙う競争戦略としての「共有価値の創造」(CSV)も織り込んでいく必要があります。
また、最新の国際的な共通言語であるSDGs(持続可能な開発目標)を使いこなさなければなりません。
さらに、企業は、投資家に対してもESGを重視してどのように持続的に価値を創造していくかという「ストーリー」を語り、メディアをはじめ関係者と良い関係(リレーションズ)を築く本来的な意味の「パブリックリレーションズ」が重要です。わかりやすくするため「三方よし」の考えも使い、「隠徳善事」では伝わらないので「発信型三方よし」として理解していきます。
筆者の31年の行政経験と9年の企業経験を活かし、「これならわかる共有価値創造とサステナビリティ経営の理論と実践」という実践的な角度で皆様と考えていくサイトです。地方創生もCSR/CSVの実践として紹介していきます。
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層の関心にも答えていきます。


(※)CSR企業の社会的責任: corporate social responsibility   CSV共有価値の創造:creating shared value
ISO国際標準化機構: International Organization for Standardization   SDGs持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals

笹谷オリジナルコラム:

経営感度を磨く社会の読み方<第13回>
再び「発信型三方よし」

2017-11-28 08:00

組織・企業において「トリプルS」を実践するためには、社会・環境課題を把握し、今を読み解く言葉「持続可能性」を理解する必要があります。国際標準の「世間話」ができるよう、実践的な教育手法を確立し、その上で活動を的確に発信していくことが大事です。今回は、第7回で取り上げた「発信型三方よし」の内容を確認します。
 

情報発信で「顔の見える企業」へ

 世界的企業、特に欧米の企業は、姿勢や使命感を明確に発信して「顔の見える企業」になっています。一方で日本企業の多くは、国内では有名でも海外ではあまり知られず、世界的なランキングで上位に入ることも少ない傾向にあります。
 日本企業はコミュニケーション能力や発信方法の点で、世界企業との競争力が問われています。関係者は商品やサービスの内容だけでなく、どのような企業から提供されているかに対して関心を高めています。商品・サービスを売るマーケティングから、「顔の見える企業」のマーケティングへの転換が必要です。
 「社会的責任に関する手引」(ISO26000)によれば、情報を発信する際には次の7つの要件が重要です。
 
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(1)完全である、
(2)理解しやすい、
(3)関係者の関心に敏感である、
(4)正確である、
(5)バランスが取れている、
(6)時宜を得ている、
(7)入手可能である。
 
 (5)の「バランスが取れている」は、企業活動の良い点ばかりではなく、マイナスの情報も示すべきであるということです。また、(7)の「入手可能性」は、企業が持っている情報を消費者などは入手できない場合も多いため、注意が必要です。
 企業は、アニュアル・レポート、コーポレート・ブック、有価証券報告書、CSR報告書などのコミュニケーションのツールの作成でもこのことを考慮すべきです。
 伊藤園の『CSR報告書2014』は、環境省および一般財団法人地球・人間環境フォーラム主催の「環境コミュニケーション大賞」の優良賞を受賞していますのでご参照ください。
 ISO26000が「本業CSR」を定義付けたことにより、CSR報告書も本業に関する報告書へと変わってきています。これを進めていけば、最終的に経営の諸要素すべてを盛り込んだ報告書になるはずです。今後はより一層、「総合報告書」の在り方についての検討が必要になるでしょう。
 

「三方よし」には補正が必要である

 米国では、リーマンショックなどの反省から株主資本主義の修正が迫られる中で、マイケル・E・ポーターらにより「共有価値の創造」(CSV)という考えが提唱されました。
 CSVは米国発の概念であるため多国籍企業や外国事例とともに語られることが多いのですが、本連載ではできるだけ日本の身近な事例で理解してきました。今後、このテーマをもう少し深く考えていくに当たり、日本の伝統と比較してCSVの本質を探っておきましょう。
 企業経営戦略やCSRの分野で、CSVは「三方よし」とよく比較されます。「自分よし、相手よし、世間よし」の「世間」を社会・環境などと現代風に捉えれば、CSVに近い概念です。しかし、米国発のCSVの概念は三つの類型などで理論化・体系化され、関係者との連携・調整のため発信を重視して「見える化」を進めています。これに対し「三方よし」は、日本の商文化の一つの伝統として認識されていますが、体系化は進んでいません。
 もっとも重要な違いは、「三方よし」とともに心得とされる「陰徳善事」です。人知れず社会を潤すという意味で、「わかる人にはわかる」と理解されています。「空気を読め」「おれの目を見ろ」といった、同質社会特有の暗黙知や雰囲気に通じるものです。従来は日本人の美徳とされてきましたが、これが日本企業を内弁慶的にし、日本人のプレゼン力の足かせにもなっています。
 企業の評価がグローバルに行われ、外国人雇用や世界的なM&Aの進展など多様な価値観によりダイバーシティが進む時代においては、的確な発信がなければ理解が進みません。日本でも発信内容の「信頼性」を確保した上で、「発信型三方よし」に切り替える必要があるのです。
 

「発信型三方よし」

 米国では「共有価値の創造」という考えが商文化の伝統として根付いているわけではないので、この新たな考え方を浸透させていくには難しい面があります。これに対し日本では、もともと「三方よし」が商文化の伝統として根付いています。言葉も比較的よく知られており、日本人にとっては、特に「世間」という言葉が「使い勝手の良い」表現ですので、CSVという外来語よりも普及しやすいかもしれません。そこで、この「三方よし」の表現をうまく活用することにします。
 その活用に当たり、次の5点の補正を加えたいと思います。
 第一点が、発信性の補正です。「陰徳善事」を修正して、「信頼性」を確保した上で的確な発信をします。関係者(パブリック)との間で関係性を構築して、メディアを含めた発信を強化する意味での「パブリック・リレーションズ」を重視します。
 第二点は、ポーターの考えも参考に、共有価値の創造の「価値」の部分を補正します。企業にとっての価値は利潤のみではなく、評判の向上や社員のモチベーション向上など複合的です。社会にとっても、環境・消費者・コミュニティ課題などさまざまな価値の創造につながります。ポーターの理論は企業の競争戦略ですから、企業の価値(Value)は利潤(Profit)を意味しますが、「三方よし」では複合的な価値創造という意味で理解していきます(いわば、CSVを複数形の「CSVs」と理解しますが、英語ではValueは不可算名詞なのでValueのままです)。その上で、ポーターのCSVの3つの類型を競争戦略として活用します。
 第三点が、「世間」の部分です。グローバル化時代に対応するための「羅針盤」として国際標準を使います。組織の「社会対応力」の強化のためにISO26000の7つの課題などを活用します。
 第四点は、もともと近江「商人」の経営哲学である「三方よし」を、企業以外の自治体・団体・NPO・大学などの幅広い組織の在り方にも当てはめて、「自分よし、相手よし、世間よし」として活用します(企業の場合は「売り手よし、買い手よし、世間よし」)。
 第五点が、「学び」の追加です。「みんなで学ぶ時代」には「お互いに学ぶ」ことが重要です。活動に当たって、「三方の学び」、すなわち「自分の学び」「相手の学び」「世間の学び」を加えます。これで、より効果的なパートナーシップが形成され、イノベーションを呼び込み、共有価値の創造につながります。
 「三方よし」を以上の5点で補正したものは、「トリプルS」を発展させたものです。これを「発信型三方よし」として提唱します(図表)。
 
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(『月刊総務』2015年8月号より転載)