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企業合併からわかるFMの差―施設の基本情報を持っているか―

2016年12月13日

 ファシリティマネジメント(以下、FM)の基本は、自ら保有あるいは使用するファシリティの状況(施設やスペースの品質・財務・供給面の状況など)を把握していることです。しかし、いきなりこれらをすべて明確にしろと言ってもなかなかできるものではありませんが、ラフでもいいから全体像を把握することは必要ですし、できる部分からでも始めなければなりません。

 ファシリティは、人・金・情報とともに重要な経営資源です。これらをマネジメントして経営基盤として経営に寄与できるようにしなければなりません。人をマネジメントするのが人事であり、ファシリティをマネジメントするのがFMです。人事部門が自社の社員の人数も把握していないで、人事戦略が立てられないのと同様に、FM部門がファシリティの状況を把握していないで、FM戦略が立てられるでしょうか。

 FMは、トップダウンでなければできないという話もあります。当然その方が良いのですが、ファシリティの状況を把握する程度のことは、総務やFMを担当している部門長の責任です。状況を把握することは、FMの戦略作りに役立つばかりでなく、日常の運営管理、自らの企業防衛・保身にも役立つものです。そうはいってもすぐにやる必要性も感じていないなどの理由で、自社の施設情報を正確に把握することが進まない方、躊躇している方に、耳寄りな事例をご紹介しましょう。企業合併で、施設の基本情報を持っているか否かが命運を分けたお話で、エピソードシリーズの3つ目です。

◆エピソード-3

 1989年(平成元年)以降、金融系の企業合併が盛んに行われた時期がありました。合併などの情報は、社内の方にも事前に知らされず突然発表される場合もあります。今回の例も同様で、A社のFM部門にいたa課長は直前まで知らされず、知らされた時はかなりショックを受け、自分が何をすべきか悩んだそうです。

 幸い、a課長は以前からFMに興味を持ち、FMの講演会などにも参加して、そこでの話に刺激を受け、その合併の3年ほど前から自社の不動産情報や施設情報を的確につかむ必要性を感じていました。そこで、FMコンサルのcさんと相談をし、全国に保有・使用している情報を統括的に集約して、パソコンで簡単に施設情報を検索できるようにデータベース化しました。いわゆるCAFM(キャフム:Computer Aided Facility Management)化を進めたのです。支店ごとに書類やExcelデータで管理していて散在していたデータを、一括して本社で集中管理すべく社内プロジェクトを起こしたのです。一部からは抵抗もありましたが、上層部を説得し、2年以上かけて本社はもちろん、全国の支店、営業所のデータを整理しました。詳細な図面などのCAD化はできなかったのですが、基本的な施設情報は把握できるようになりました。

 一方、合併相手のB社のFM部門のb課長さんもFMについてはそれなりの知識をお持ちで、CAFMの導入を検討され、本社の一部で試行していました。もともと設備に詳しいb課長さんは、技術屋でもあり、CADによる図面管理や設備機器管理など詳細な情報管理に興味を持っていました。それゆえ、FMコンサルのcさんが、本社だけでなく全国の施設情報を把握することの大切さをアドバイスしても、支店が独自に管理しているので難しいなどの理由でほとんど本社以外に展開していませんでした。

 そんな時、突然A社とB社の合併が発表されたのです。ほどなく、A社とB社の人員整理の話があり、それらを受けて、両社共同で、支店・営業所の再配置計画から、移転計画、ワークプレイス計画、サイン・看板計画などなど、計画からマネジメントまで実施する各種プロジェクトが発足しました。合併という初めての大事業であるだけでなく、タイトなスケジュールでもあり、参加されるみなさんは緊張感もありプロジェクト会議は独特の雰囲気でした。そこにはFMコンサルのcさんも参加し、プロジェクトの推進役兼調整役を果たしていました。

 プロジェクトルームには、A社からはパソコンが3台程持ち込まれ、そこから全国の施設関連データは取り出せるようになっていました。一方、B社からもパソコンは持ち込まれましたが、全国の施設関連データはそこにはなく、壁面に配置されたスチール棚に全国の施設の図面と各種台帳がずらっと並んでいました。

 プロジェクトがスタートし、本社・支店などの再配置計画の議案になったときのことです。ある地区の再配置計画で議論していると、A社はパソコンをたたきながら、「この地区にはビルが3棟あり、そのうち自社ビルは1棟で2棟は賃借ビルです。その面積は......、賃借契約期間は......」と周辺のビルの所有状況や利用状況などを俊敏かつ的確に答えていました。

 それに引き換え、B社は、台帳と図面を引っ張り出しながら、「ちょっとお待ちください。確か当社も3棟で、そのうち1棟は......」と、なかなか俊敏には回答が得られず、会議がギクシャクしてきました。その後も同様な展開をしているうちに、いつしか会議はA社のペースで進み、B社には厳しい言葉も飛ぶようになり、推進役兼調整役のcさんも苦慮したそうです。最終的には何とか目標の合併に合わせて、再配置計画から移転まで実施されましたが、B社のFM関係者は、退社したり地方や他部署へ転勤したりなどで、本社のFM部門にほとんど残る人はいませんでした。


 FMはトップダウンが必要なことは正論です。しかし、トップはスーパーマンではありません。部門長がその責任を果たして組織は成り立ちます。その部門としての基本的なことをしていないことによって、まともに戦い(議論)すらできないのです。あなたは大丈夫でしょうか。たかがデータベース。されどデータベース。データ(出た)とこ勝負ではいけません。

成田 一郎
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