企業はいよいよ国際標準である「社会的責任の手引」(ISO26000)を使いこなして、慈善活動的CSRから本業CSRへ転換し、ポーター教授らによる社会課題と経済価値の同時実現を狙う競争戦略としての「共有価値の創造」(CSV)も織り込んでいく必要があります。
また、最新の国際的な共通言語であるSDGs(持続可能な開発目標)を使いこなさなければなりません。
さらに、企業は、投資家に対してもESGを重視してどのように持続的に価値を創造していくかという「ストーリー」を語り、メディアをはじめ関係者と良い関係(リレーションズ)を築く本来的な意味の「パブリックリレーションズ」が重要です。わかりやすくするため「三方よし」の考えも使い、「隠徳善事」では伝わらないので「発信型三方よし」として理解していきます。
筆者の31年の行政経験と9年の企業経験を活かし、「これならわかる共有価値創造とサステナビリティ経営の理論と実践」という実践的な角度で皆様と考えていくサイトです。地方創生もCSR/CSVの実践として紹介していきます。
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層の関心にも答えていきます。


(※)CSR企業の社会的責任: corporate social responsibility   CSV共有価値の創造:creating shared value
ISO国際標準化機構: International Organization for Standardization   SDGs持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals

笹谷オリジナルコラム:

笹谷秀光の「協創力が稼ぐ時代」<第3回>
新年に日仏比較から学ぶ

2018-01-04 10:00

フランス、世界文化遺産モン・サン・ミッシェルに学ぶ

 新年にあたり、初心に帰ろうと思います。私のグローバルとの最初の接点はフランスです。31年間勤務した農林水産省に入ってすぐに、フランスに留学に行きました。非常に印象に残ったのがモン・サン・ミッシェルです。昨年久しぶりに再訪した時に持続可能性について考えさせられました。

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モン・サン・ミッシェル

 

 モン・サン・ミッシェルはパリから西に3時間ほどのノルマンディー地方にある世界文化遺産です。干潟に囲まれた島の中の修道院に巡礼の地として昔から多くの人が訪れ、今は観光客を含め年間300万人が来ます。

 修道院に行くには急峻な坂を上っていかなければならないのですが、島に入ってすぐの入口に「ラ・メール・プラール」というオムレツ屋があります。巡礼者に何を食べてもらったら胃に優しいだろうか考えた結果、オムレツにいきついたそうです。

 この店は、日本でいえば手打ちそばのように、調理作業を見せて美味しそうだと感じさせるスタイルで、値段は非常に高いです。値段が高いというのがポイントです。こういうものを安売りしているようではダメなのです。今では観光客にも人気で、このオムレツビジネスは、モン・サン・ミッシェルの名声とともに広がり、支店ができたり、いろいろな土産店などの事業展開もされています。

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「ラ・メール・プラール」のオムレツ

 

 島内の石造りの建物は改造されてWi-Fi完備の快適なホテルや「民宿」があります。

 そして夜になると、写真のように、すばらしいライトアップです。ここまで使い切るかというぐらい世界遺産を使っています。

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 周りの干潟にはいろいろな鳥がいて、海の満ち引きによる生物多様性を感じることができます。昔は車の乗り入れもできた記憶があります。

 かつては対岸との間に地続きの道路があり干満に関係なく島へと渡れました。しかし、急速な陸地化が進行して干潟が荒れてしまった。そこで、かつての姿を取り戻すべく多大な予算の国家事業で、2009年には地続きの道路が取り壊され、2014年に新たな橋が完成したといいます。

 今は車の乗り入れをやめて、環境配慮の電気シャトルバスで島内に入ります。水鳥なども戻り、生物多様性を学ぶツアーもあります。1994年10月にはラムサール条約登録地になっています。

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電気シャトルバス

 

 このように世界遺産をうまく使いながら守っていく。保全と利用、伝統と最新技術、人と自然、観光と暮らしの調和です。このノウハウを学ぶには、1週間ほど滞在していろいろなものを見るべきだと思いました。今回は1泊だけの滞在でしたが、朝昼晩と素晴らしく学ぶことが多かったです。

 

日本の白川郷とフランス

 それでは、日本はどうかといいますと、フランスと縁の深い、日本の代表的な文化遺産があります。合掌造りで知られる白川郷を見てきました。白川村の人口は1,600人強で、観光客は外国人の伸びが大きく年間180万人を超えています。

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白川郷の冬景色

 

 白川村のある岐阜県はフランスのアルザス地方とつながりが深いです。2014年に「日本---アルザス友好150周年」事業の一環として、多くの経済協定が調印されました。

 その一つが、2014年11月締結の白川村とアルザス地方のリクヴィール村の友好関係推進宣言書の調印です。これはアルザスと岐阜県との次のようなつながりの一環なのです。

・岐阜県---オーラン県 経済・観光に関する協力覚書
・高山市---コルマール市 経済・観光協力協定書
・飛騨地酒ツーリズム協議会---アルザスワイン街道 友好提携宣言

 このように、岐阜県、高山市、白川村という重層構造の関係構築です。

 余談ですが、筆者にとってアルザス、特にコルマールは忘れられない思い出があります。40年以上にもわたりミシュラン3つ星に輝き続け、世界中の美食家たちを魅了してきた伝統あるレストラン、「オーベルジュ・ド・リル」(L’Auberge de L’ill)があるところです。アルザスのコルマールのそば、小さな村イルハーゼンに佇む旅籠屋(オーベルジュ)です。

 ミシュランの星の数はそれぞれ、「わざわざ旅行する価値がある(★★★)」「寄り道する価値がある(★★)」「興味深い(★)」を意味します。筆者もフランス留学中の30年以上前にこの3つ星レストランに「わざわざ」行きました。

 

北陸・飛騨・信州3つ星街道の旅

 ミシュランといえば、ここには「北陸・飛騨・信州3つ星街道の旅」(3つ星街道観光協議会が事務局)というものがあります。「緑」のミシュラン、観光のミシュランです。いろいろと調べますと、日本人がイメージする素晴らしいところとは少し違うところに3つ星がついていたりします。

 「緑のミシュラン」は意外と知られていないようです。レストランではなく、訪れるべき観光地(建築物、自然等を含む)の旅行ガイドで、「赤のミシュラン」と同様に、3つ星、2つ星、1つ星を付けています。

 「3つ星街道の旅」は、3つ星を獲得した金沢の兼六園、飛騨高山や信州の国宝松本城などに、世界遺産である白川郷を組み合わせて周遊させるというものです。

  サイトはこちら  http://www.mitsuboshi-kaidou.jp/

 このようにつながりを持ってストーリーを作るので、皆がワクワクして旅に出ます。点ではダメなのです。これらを上手く組み合わせて「協創」しているところに素晴らしさがあります。

 実際に見に行くと、いろいろと勉強になります。まず、「すったて鍋」というものを見つけました。これは豆乳鍋のような地元鍋で、飛騨牛が入っていて結構美味しかったです。地元の鍋を掘り起こす「ニッポン全国鍋大会」で優勝しています。

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すったて鍋

 

保全と利用

 では、これが先ほどのモン・サン・ミッシェルのオムレツに育つにはどうすればよいのか。持続可能な形で次世代に繋いでいくには、しみじみと繋いでいてもダメで、ビジネスとしてスケールしないといけません。

 ことがらにはSustainabilityとScalingの二つの「S」が必要です。

 1,600人の村に毎年180万人が訪れて、地元にいくらお金を落としているか。これが意外に小さいそうです。私はモン・サン・ミッシェルには相当なお金が落ちていると思います。この違いをどのように乗り越えるかが、観光への利用ではポイントとなります。

 もちろん保全と利用のバランスが必須です。また、食べ物だけでなく、お土産なども白川郷で中国産のお土産はいただけません。地元のいいものをどのように掘り起こし、地域活性化につなげていくかです。

 また、観光客の学びや発信のためにもWi-Fi環境などICTの活用による環境整備は重要です。白川村はKDDIと「白川村地域活性化を目的とした連携に関する協定」を結んでネット環境の整備を進めています。KDDIとしての共有価値の創造(CSV)に育ちそうです。

  http://shirakawa-go.org/yakuba_info/8580/

 

白川郷に見る日本の強みとは

白川郷で1枚の写真に強く惹かれました。

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「結」写真:白川村提供

 

 白川郷の合掌造は百数十戸しか残されていないのですが、何年かに1回葺き替え作業が必要です。一人ではとても無理で、昔から皆で葺き替え作業を行ってきました。

 茅を持って来る人、載せる人、差し込む人、調整する人がいて、これを「結(ゆい)」の仕組みと言います。これがずっと白川郷を守ってきました。

 私はこれで日本は大丈夫だと確信しました。この「結」という歴史と伝統は日本人社会のいろいろなところに同じような形で生きています。「結」がある国は今後活性化すると思います。

 大晦日のNHK「行く年くる年」にも最初に出てきた白川郷の明善寺にもお参りしました。「さるぼぼ」が飛騨地方のお守りです。飛騨弁で赤ちゃんのことを「ぼぼ」と言い、「さるぼぼ」は「猿の赤ん坊」といった意味で、家内安全・子宝・安産・家庭円満・良縁・成功・厄除け等のお守りです。「結」の中で生まれたお守りでしょう。

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明善寺にて「さるぼぼ」を手に

 

 結はSDGs(持続可能な開発目標)で言えば目標17番の「パートナーシップ」です。結の仕組みがないところにパートナーシップと言っても、パートナーシップの説明からスタートしなければなりません。

 モン・サン・ミッシェルに「結」があるかどうか分かりませんが、私はフランスと日本は相当似ていると思います。日本人には結があるので、あとはその良さに気づき、どう行動を起こすかです。

 

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笹谷オリジナルコラム:

笹谷秀光の「協創力が稼ぐ時代」<第2回>
サステナビリティ新時代と「協創力」(2)

2017-12-25 11:00

世界標準で見る:サステナビリティという価値観

 社会・環境の変化が激しい中で、企業はどう戦略を描けばいいでしょうか。

 私の専門ですが、「CSR」に関連します。Corporate Social Responsibility、「企業の社会的責任」と訳されていますが、responsibilityとは「 response+ability」、反応する能力、つまり、社会対応力のことです。2010年に決まった国際標準ISO26000(2010年発行)では、CSRを本業活用で実施するという明確な方向性が打ち出されています。今は「本業CSR」の時代です。

 最近は、さらに、米国ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授らが「共有価値の創造」という考えを提唱しました(2011年)。Creating Shared Valueで、「CSV」と略されています。

 これは社会課題も解決し、経済価値も生んでいく、この同時実現しようという魅力的な考えです。

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2016年12月、ポータークラブ(一橋大学)にて

 

サステナビリティの世界共通言語: SDGs

 さらに、ご存知と思いますが2015年に国連で決められた「持続可能な開発目標(SDGs)」がまさに最新の世界共通のサステナビリティの共通言語となります。企業価値を向上させるうえで必須の要素となりました。

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 これからの企業戦略は、
第一に、社会対応性を高める(ISO26000を活用した国際標準のCSR)、
第二に、「持続可能な開発目標(SDGs)」を2030年目標として取り込み、世界標準の目標体系に即応する、
第三に、共有価値創造CSVのアプローチを経営戦略として活用する、
第四に、その結果を発信する(GRI/IIRCなどの国際的報告ガイダンスを使用)、
・・・この4点が重要です。

 世界的なルール・メイキングも変わってきています。国家を縛る義務的なものは合意が難しく、むしろガイダンス的なものを決めて、デファクトスタンダード化していく流れです。日本はいち早くルール適応から、ルールを使いこなす、さらにはルール形成に参加する方向に行くべきです。

 例えば、英国は五輪レガシーとして「持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム規格」ISO20121を残しました。そして自らの五輪をその第一号にしたのです。2012年ロンドン五輪・パラリンピックは「持続可能性」を目指す大会として高い評価を得ました。

 自分でルールを作り、自分に適用し、レガシーとする。欧州はルール・メイキングがうまいのです。

 

ESGのうねり:2017年はESG「実装元年」

 持続可能性について、2017年が重要な節目の年となりました。

「ESG」が今後おさえておくべき重要な言葉です。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字で、もともと投資家が投資先を選定する基準として重視すべき非財務情報を指す用語です。

 この3要素すべての側面で2015年には内外で重要な動きがありました。「E」ではパリ協定、「E」と「S」でSDGs、「G」ではコーポレートガバナンスコードです。

 そして、2017年7月には、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESGのインデックスを発表し、世界最大の保有資産約150兆円のうち国内株式30兆円の1兆円分をESG投資に振り向けると発表しました。

 いよいよ、投資家も本格的にESGに向けて動く「実装段階」に入り、「サステナビリティ新時代」の幕開けです。経営情報を世界的な指針を活用して発信できるかどうかが企業戦略の要諦となっていることも、今後深堀りしていきます。

 

企業の力を生かしてサステナブルな社会を創る
「発信型三方よし」を経営戦略に

 こうして、社会課題が複雑化している現下の経済社会の中で、企業と関係者が連携、協働して新たな価値を生み出す「協創力」がますます重要になりました。

 五輪・パラリンピックはもちろん、企業のCSR/CSV/SDGsの応用局面です。

 このように「横文字」のオンパレードです。

 しかし、考えてみると、日本には近江商人の「三方よし」(自分よし、相手よし、世間よし)という、考え方がルーツとしてあり、これが上記の横文字、特にCSVに近い概念として活用できます。ただ一点、大きな違いは、日本には「陰徳善事」という「人知れず社会に貢献しても、わかる人にはわかる」という心得があります。日本人らしい美徳ですが、グローバル時代には通用しません。

 そこで「三方よし」に「発信性」を加えるべきです。企業が的確に活動を発信して「明日のことを考えてやっている企業なら応援したい」といってもらえるよう、企業価値を上げるのです。

 このような「発信型三方よし」を理論化して、私は「協創力が稼ぐ時代」における新たな経営戦略として提唱しています。

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いいね!なるほど!またね!さすが!

 わかりやすく言えば、こういう活動には、まず「いいね」という共感が必要です。でも、なぜその活動を行っているのかを丁寧に説明すると「なるほど」と腑に落ちます。そんなにいいことなら「またね」となる。この「いいね、なるほど、またね」というサイクルを作っていけるかどうか。

 これは若い人たちの方が得意かもしれません。「いいね」マークなど私の若いころは無かったですから。「いいね!」は共感、「なるほど!」は理解、「またね!」は継続です。

 そうして、評価がついてきて「さすが!」となると万全ですね。

 この4つのサイクルの形成を目指すのです。

 このためには、企業は活動内容を的確に発信することが重要です。

 発信にもコツがあります。まず、物語性、ストーリーテリングの時代です。ストーリーになると「なるほど」感がでます。加えて、わかりやすさです。そして、それを戦略的に打ち出していく。

 これは、関係者の皆様、つまり「パブリック」にわかりやすく活動を伝える力ということもできます。単なる広報ではない「パブリックリレーションズ」が重要です。

 

クールジャパン、インバウンド、レガシーの「プラットフォーム」

 当面の五輪に向けてのキーワードはクールジャパン・インバウンド・レガシーの3つでしょう。この3点が相互に絡んでいることが重要です。

 五輪は世界に向けた企業の「発信型三方よし」の実践局面です。

 これだけ課題が複雑化してくると、一つのセクターだけで解決できることには限界があります。政策等で「協創」を促す活動の共通基盤が重要で、私は「プラットフォーム」といっています。企業はどう参加してビジネスにつなげていくか。役所対民間ではなく、関係者が相互に補完し合いながら、知恵を出していく必要があります。

「産官学」に「金労言」を加えた、関係者の総力結集です。「産官学金労言」と言われています。

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私がこのウェブ版で提起したいポイントは3つです。

第一に、みんなで活動する共通基盤、「プラットフォーム」に参加して協働する ------「協」。
第二に、WIN-WIN関係を作る、企業にもいい、社会にもいいという関係を構築する ------「創」。
第三に、これを学び、発信力をつける ------「力」です。

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笹谷オリジナルコラム:

笹谷秀光の「協創力が稼ぐ時代」<第1回>
サステナビリティ新時代と「協創力」

2017-12-18 11:30

サステナビリティ新時代の到来

 新年には、おせち料理を囲み、和紙に書き初めをし、テレビに映し出される富士山を見るという方も多いのではないでしょうか。これら日本人にとってたいへん身近な事柄は、すべてユネスコ(国連教育科学文化機関)の、和食(無形文化遺産)、手漉(てすき)和紙(無形文化遺産)、富士山(文化遺産)という文化遺産に関連します。

 昨年はこれに日本の「祭り」も無形文化遺産に加わりました(18府県33件の「祭り」で構成する「山・鉾(ほこ)・屋台行事」が登録。すでに登録されていた京都祇園祭や日立風流物に加え、富山県のたてもん、埼玉県の川越氷川祭(通称:川越まつり)、高山祭の屋台行事などが登録)。

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(筆者撮影:富山県魚津市「たてもん」)

 

 また、「富岡製糸場と絹産業遺産群」や「明治日本の産業革命遺産」という文化遺産は、日本の近代産業集積の原点も登録されています。

 そして、東京五輪・パラリンピック(以下、「東京五輪」)の招致にも成功しました。

 個々の事項はご存じと思いますが、その底流にある共通項が重要ではないでしょうか。いずれもグローバルに通用する価値観に訴え、成功したのです。この価値観を理解することが、これからの日本の行方に関わります。

 「持続可能性」。つまり、子孫につなぐ社会・環境という価値観です。

 以上は、拙著「協創力が稼ぐ時代」(2015年10月発刊)の書き出しに加筆した内容です。いよいよ日本は持続可能性を世界標準で理解すべき「サステナビリティ新時代」を迎えました。

 

今、日本に求められているもの

 「日本には、明日のことをきちんと考えられる能力があり、明日に向けて守るべき価値あるものがある」と世界に認められたわけです。これは非常に良いチャンスです。

 2020年の五輪開催に向けて、政策課題も決まりました。地方を元気にする地方創生は2019年までが第1期。五輪のための国際都市東京を作る。そして五輪レガシーを遺す。これらあわせて「日本創生」です。2020年を一つの締め切りに ----- これを「締め切り効果」といいますが ----- 日本人全員で日本創生に参画すべきです。

 国際都市東京 + 地方創生 + 五輪レガシー =「日本創生」です。

 この数年間が、勝負の時です。

 五輪は、世界が東京・日本に来ることを意味します。インバウンドへの対応として異文化コミュニケーションの強化も必要です。

 また、ICT、IOTの著しい進化によって、動画サイトやSNSで瞬時に何でも伝わるうえ、様々な「モノ」にネットがつながり新製品・新サービスが生まれます。こうした、「新グローバル時代」はビジネスチャンスの宝庫ですが、成功するには、企業にも新たな競争戦略が求められます。

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この特設サイトの狙い --- 「協創力」の時代を読み解く

 このサイトでは拙著『協創力が稼ぐ時代』の内容を敷衍して、最新の「経営感度を磨く、社会の読み方」を展開します。

 お祭りの無形文化遺産登録にも協創力について多くのヒントがあります。なぜ祭りが登録されたのかを考えてみましょう。

 祭りの出し物は、各地域の「文化の粋」です。山車のすばらしい飾り付けや、からくり人形やミニ歌舞伎などもあります。

 漆など、それぞれの地域の特産品で作った材料を生かして、非常に地域に根ざしている。

 祭りに山車を出すとなると、〇〇祭り保存会等の人たちがそれに向けて練習し、コミュニティの結束にもつながる。

 そして何より、その地域で良いものを守っていこうという町のシンボルとして機能します。

 以上から、コミュニティでの、関係者の「協創」による持続可能な無形文化遺産の保護・継承の事例として,国際社会におけるモデルとして認められたのです。

 京都の祇園祭が代表的ですが、この他にも地域特有のお祭りが登録されました。各地のお祭りが認められたということですから、元気が出ます。インバウンドの観光客も増加すると思います。これを使って、まちおこしにも大いに活用していただきたいと思います。

 これこそ、まさに「クールジャパン」です。「クールジャパン」とは、日本のいいものを発信していくこと。この「クール」は、クールビズのクールと同様に、「かっこいい」という意味です。

 日本の歴史と伝統・文化に根付いたものや和食から、アニメ、「かわいい」等の最新のコンテンツや技術までありますが、「山・鉾・屋台」もクールジャパンの「塊」です。

 クールジャパンとは、政府文書では日本人の自発的なクリエイティビティを国際社会で遺憾なく発揮してもらうための国民運動とされています。「相手をおもんぱかる」「クリエイティブ」「課題解決力」といった点がポイントです。

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笹谷オリジナルコラム:

経営感度を磨く社会の読み方<第20回>
「かかあ天下」という「協創の鼓動」

2017-11-28 08:35

ユネスコの世界文化遺産は人類全体の遺産として、次世代のために保護・保存して残すべき「顕著な普遍的価値」があるものです。だからこそ、これに登録されることは優れたコミュニティの文化的アイデンティティの象徴なのです。
誇るべきものはこれに登録されたものだけに限りません。国宝などのほか、自然、歴史、まち並み、文化・芸術を見直しましょう。
2015年度、新たに「日本遺産」認定の仕組みができました。そして同年4月、全国各地の有形無形の文化財を地域やテーマごとにまとめた18件を、文化庁が初認定しました。
今回は世界遺産と日本遺産の両方を組み合わせた事例から明日の日本の在り方を探ります。
 

世界遺産を核としたモノづくり(群馬県富岡市)

 世界文化遺産に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、日本近代の技術の伝承と世界との交流が評価されています。もともと養蚕農家と絹糸産業の集積で、産業クラスターの「元祖」的存在。最近の言葉では、一次・二次・三次産業の集合による「六次産業化」や、産官学の連携の成果といえるでしょう。
 富岡製糸場の建設では、当時大蔵省に勤務していた渋沢栄一翁が大きな役割を果たしました。彼は埼玉・深谷の養蚕農家の出身で、フランス留学で生糸を学び、富岡製糸場の建設計画に参画します。その後、日本資本主義の父といわれるような活躍をしますが、『論語と算盤』(角川ソフィア文庫2008年、原著は1927年忠誠堂発行)を著すなど、「社会対応力」を重視していたことも注目されます。
 富岡製糸場が世界遺産に登録されたのは2014年6月。2014年度の入場者数は約133万人超と、前年度(約31万人)の4倍以上に達しました。富岡市ではこれを核に、産業・観光振興と人材育成を、産官学の協議会で推進しています。
 このような場合に市の政策の動きを理解する方法の一つが、予算案を見ることです。2015年度当初予算(案)では、「世界遺産にふさわしい日本一のまちづくり」という題名で、関連予算として繭と生糸のふれあい体験事業、養蚕振興と六次産業化、地域資源「富岡シルク」の振興などの項目があり、いずれも関係企業の参加を仰いでいます。
 さらに市役所では一係につき一つ以上の改善提案を推奨する「一係一提案」を実施。その結果、128件に上る予算合理化の提案がありました。地方創生に向けた市の意気込みが感じられます。
 世界遺産ブランド活用によるビジネス創出の例では、富岡製糸場の入場券にシンボルキャラクター「お富さん」の絵が描かれ、その裏面には、LINEスタンプを購入するとその売り上げが日本の森林の保全活動に使われる仕組みが紹介されていました(2015年8月来訪時)。一般社団法人フォレストック協会と連携していて、この仕組みにより世界遺産の維持管理に当たる自治体、環境関連団体、LINEスタンプの運営企業、入場者の間でWin‐Winの関係が生まれています。
 
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 市には組織として「富岡市世界遺産部」があり、富岡製糸場保全課・富岡製糸場戦略課のほか観光おもてなし課まであり、アイデアをひねっているのでしょう。
 

日本遺産制度で地域資産の棚卸しを!

 この世界文化遺産に対し、「日本遺産」制度は歴史的な価値や意義をわかりやすく伝えるストーリー性があり、その魅力を海外にも発信できることを基準として、文化庁により選定・発表されるものです。今後、地方創生の有力な武器になる制度です。地域の観光振興につなげるねらいもあり、東京五輪が開催される2020年までに100件程度に増やす予定だそうです。
 次のような特色ある選定が含まれています。
●福井県「海と都をつなぐ若狭の往来文化遺産群 - 御食国(みつけくに)若狭と鯖街道 - 」
●京都府「日本茶800年の歴史散歩」
●四国四県「『四国遍路』- 回遊型巡礼路と独自の巡礼文化 -」
 

「かかあ天下」のストーリー 女性活躍の元祖

 この第一弾指定の中でも異彩を放つのが、世界遺産の「富岡製糸場と絹産業遺産群」に密接に関連する、「かかあ天下 ---- ぐんまの絹物語 ----」です。申請者は群馬県(代表)、桐生市、甘楽町、中之条町、片品村で、申請によれば、ストーリーの概要は、次のようなものです。
 古くから絹産業の盛んな上州では、女性が養蚕・製糸・織物で家計を支え、近代になると、製糸工女や織手としてますます女性が活躍しました。夫(男)たちは、おれの「かかあは天下一」と呼び、これが「かかあ天下」として上州名物になるとともに、現代では内に外に活躍する女性像の代名詞ともなっているのです。
 「かかあ」たちの夢や情熱が詰まった養蚕の家々や織物の工場を訪ねることで、日本経済を、まさに天下を支えた日本の女性たちの姿が見えてくる、とのことです。
 構成文化財は12件(すべて、ぐんま絹遺産)で、桐生市が白瀧神社、旧模範工場桐生撚糸合資会社事務所棟、桐生市桐生新町伝統的建造物群保存地区、後藤織物、織物参考館「紫」、桐生織物会館旧館の6件、甘楽町が旧小幡組製糸レンガ造り倉庫、甘楽町の養蚕・製糸・織物資料、甘楽社小幡組由来碑の3件、中之条町が富沢家住宅、中之条町六合赤岩伝統的建造物群保存地区の2件、片品村が永井流養蚕伝習所実習棟の1件と、幅広いものです。
 このように、世界遺産に日本遺産のストーリーを加えることで、一層高い説得性が生まれ、その保護・伝承への力が結集されます。
 

NHK大河ドラマ『花燃ゆ』

 この「かかあ天下 ---- ぐんまの絹物語 ----」は、昨年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』でも、群馬県令(今の県知事)になった楫取素彦とその妻・美和(吉田松陰の妹)が絹産業の振興に奔走する姿が描かれていましたので、ご覧になった方も多いことでしょう。大河ドラマは一年を通じて放送される中で、ドラマというわかりやすい形で歴史を思い浮かべることができます。当時の美和やそれを取り巻く「かかあ」の活躍する姿から、現在につながる「協創の鼓動」を感じました。また、制作過程でも、ロケの地元とドラマ制作関係者や俳優との間で交流が生まれました。
 日本創生・地方創生では、それを担う市民はもちろん、企業人も含めた地元の人が主役です。このドラマは女性活躍の先駆けでした。
 このほか、同じ時代に水戸藩校だった「旧弘道館」など、茨城、栃木、岡山、大分の四県の旧教育施設で構成された「近世日本の教育遺産群 ---- 学ぶ心・礼節の本源 ----」も日本遺産に選定されていますが、みんなで学ぶ時代にふさわしい選定です。
 
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(『月刊総務』2016年3月号より転載)

 

 

笹谷オリジナルコラム:

経営感度を磨く社会の読み方<第19回>
五輪レガシーと持続可能性

2017-11-28 08:30

2016年は、夏のブラジルのリオデジャネイロ大会もあり、オリンピック憲章で使われている「レガシー(遺産)」という単語が重要となりそうです。オリンピック憲章では、競技大会を行うだけではなく、大会後、開催都市・開催国として有益なレガシーを、将来世代に引き継ぐことが期待されています。
 

国際的な感度で「五輪レガシー」を目指す

 1964年の東京大会のレガシーで現在も残るものとして挙げられるのが、新幹線、首都高速道路をはじめとしたインフラや、ごみのない美しい街並みなどです。今回の大会では、課題先進国として他の先進国に先駆けて解決が求められている課題、つまり、高齢化社会(日本ではこれに少子化も加わる)、環境・エネルギー問題、地域課題などへの対応に当たり、政府によれば「日本の強みである技術、文化を生かしながら、世界の先頭に立って解決する姿を世界に示し、大会を世界と日本が新しく生まれ変わる大きな弾みとする」と示されています。
 併せて、成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーとして、(1)大会を通じた日本の再生(「強い経済」の実現)、(2)文化プログラム等を活用した日本文化の魅力の発信、(3)スポーツ基本法が目指すスポーツ立国、(4)健康長寿・ユニバーサルデザインによる共生社会、が挙げられています。図表にポイントを整理しました。経済・環境・社会のいわゆる「トリプル・ボトム・ライン」のすべての項目でレガシーを目指していることが理解できます。
 
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 五輪誘致はグローバルに通用する価値観に訴え、成功したのです。この価値観を理解することが、これからの日本の行方にかかわります。「持続可能性」。つまり、子孫につなぐ社会・環境という価値観です。
 五輪では持続可能性をしっかり担保するため、ロンドン大会から「持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム規格」(ISO20121)が活用されています。これに的確に対応するには、あらためて企業のみならずすべての組織に適用可能な国際標準の「社会的責任の手引」ISO26000を共通言語として読みこなし、国際的な社会的感度を養う必要があります。
 

ソフト・ハード両面でレガシーを創出していく

 五輪というもっとも社会性の高い世界的イベントは、コミュニティ課題、文化・教育、人権、環境などの幅広い課題に関連します。ハード・ソフト両面で外国人来訪者の受け入れ態勢を整える必要があります。
 ハード面でのレガシーでは、東京駅丸の内駅舎保存復原プロジェクトが参考になります。工事を請け負った鹿島建設株式会社は、創建時の外観を忠実に復原するとともに、巨大地震にも耐え得る免震工法で施工しました。失われつつある左官、板金の特殊技能を生かして、明治・大正の創建時の技術と昭和・平成の現代の技術を結集し、将来へ継承する建築となりました。
 同社によれば、その施工の際の理念は、(1)姿をつなぐ、(2)技術をつなぐ、(3)環境へつなぐ、(4)構造をつなぐ、という4つの「つなぐ」です。これらの理念は今後いろいろな施設建設で「五輪レガシー」を創出していく上でのヒントになります。
 ソフト面では、「おもてなし」が大事なレガシーの一つです。
 経済産業省の「おもてなし経営企業選」は、企業人の目線で参考になります(2012年度50社、2013年度28社、2014年度22社)。同省は「おもてなし経営」を、次のように定義しています。
(1)従業員の意欲と能力を最大限に引き出し、(2)地域・社会との関わりを大切にしながら、(3)顧客に対して高付加価値・差別化サービスを提供する経営。
 これにより、自分よし(企業の収益や従業員満足度の向上)、相手よし(消費者の満足)、そして世間よし(環境・社会的価値の実現)という「三方よし」が成立します。「おもてなし」は日本の商文化の三方よしから生まれるのだという考えであり、よくできています。発信性も高く、優良事例の水平展開に役立ち、企業に客観的評価を与えるすばらしいプラットフォーム行政です。サービスの三方よしを考える事例集としても参考になる上、専門家の意見を聞いて行政が設定した定義が、事実上の標準(デファクトスタンダード)になる、という意義もあります。
 

世界が絶賛する「7分間の奇跡」

 NHK連続テレビ小説『私の青空』(2000年放送)は、青森県大間町に国際的な観光地域づくりの機運をもたらしました。
 大間はマグロの一本釣りが有名ですが、この伝統的な漁法が乱獲につながらない漁法として国際的な関心を集めたことをきっかけに、外国人への「おもてなし」を本格化すべきだと「気付き」、外国人旅行客の受け入れに注力しました。今では毎年10月の「大間超マグロ祭り」で行われるマグロ漁ウォッチングや解体ショーが大人気。2012年からは、自転車で大間町の周辺を回るイベントも行われています。その結果、観光庁が集計する市区町村別の外国人宿泊者数の調査で、大間町は2010年から2013年にかけて全国2位の伸び率に。なんと538倍になったそうです(『日本経済新聞』2015年2月26日)。
 この例では、「外国人を巻き込む参加型の企画になっている」「外国人と地域の交流が生まれている」「情報発信が盛んで継続性を持って実施している」という共通項があることに「気付き」ます。
 思えば、映画やドラマのロケによる地域活性化やおもてなしの元祖的存在は映画『男はつらいよ』シリーズの「寅さん」かもしれません。寅さんは全国各地の中山間地域を回っています。また、寅さんの故郷、柴又(東京都葛飾区)では、地元関係者のネットワークにより現在もまちなみづくりと地域活性化が進められていて、その活動が2010年「都市景観大賞・美しいまちなみ特別賞」(後援:国土交通省)をはじめ、2009年度「グッドデザイン賞」などにつながっています。
 
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(『月刊総務』2016年2月号より転載)

 

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