生産性向上に大きくかかわる「ワークエンゲージメント」 高めるカギは経営層と従業員のズレの解消
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みなさんの会社では、個々の従業員がどの程度力を発揮できているか、どれくらい熱心に業務に取り組んでいるのかをどのように把握されていますか。利益向上や社会貢献など、会社の目的はさまざまですが、生産性を向上させることは全ての企業の存在にかかわる重要なミッションであるといえます。今回は、生産性に大きく影響する人的要因である「ワークエンゲージメント(work engagement)」について取り上げます。
生産性を押し上げるワークエンゲージメント
生産性を左右する要因として、メンタルヘルスや心理学の観点から外せないのが「ワークエンゲージメント」です。この概念は、オランダのユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱されました。シャウフェリ教授は、ワークエンゲージメントを「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素が満たされている状態と定義しており、従業員が仕事に対してポジティブで充実している心理状態を指します。「モチベーション」と混同されやすいですが、モチベーションが仕事の意欲を起こさせる要因であるのに対し、ワークエンゲージメントは意欲的になっている個々の従業員の心理状態を指します。
ワークエンゲージメントが高いと、以下の特徴を備えることが明らかになっています(※)。
(1)心身の健康が良好で睡眠の質が高い
(2)職務満足感や組織への愛着が高く、離転職の意思や疾病休業の頻度が低い
(3)自己啓発学習への動機付けや創造性が高く、役割行動や役割以外の行動を積極的に行い、部下への適切なリーダーシップ行動が多い
近年、資本家へのアピールにとどまらず採用活動において外せなくなっている健康経営においても重要なアウトカムとされます。
※ 島津 明人編集代表 ほか『Q&Aで学ぶワーク・エンゲイジメント できる職場のつくりかた』(金剛出版,2018年)
ワークエンゲージメントの測定方法はさまざまありますが、いちばん身近で手軽な方法として、新職業性ストレス簡易調査票80項目版をストレスチェックの調査票に採用することです。「Q.79 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「Q.80 自分の仕事に誇りを感じる」の2項目で測定が可能です。筆者がコンサルタントとして企業にかかわる際、ストレスチェックを実施するときにはワークエンゲージメントと後述する仕事の資源を測定することができるこの80項目版をすすめています。取り組みをする際に、ストレスチェックの各指標を目標として設定することもできますし、結果としてワークエンゲージメントがどのように推移していくかを知ることもできます。
なお、ワークエンゲージメントと似た言葉に「従業員エンゲージメント」があります。ワークエンゲージメントが業務に対する心理的な結び付きであるのに対し、従業員エンゲージメントは所属する組織に対する心理的な結び付きといえます。従業員エンゲージメントが高いと組織への愛着や忠誠心があり、組織への貢献意欲が高く、友人に転職先として紹介したいとさえ考えます。当然、企業としては従業員エンゲージメントを高めるメリットは大きく、離職予防としても有効です。ですが、生産性という意味では直接的に影響するのはワークエンゲージメントと考えた方がよいでしょう(一部のサービス提供会社の「従業員エンゲージメント・サーベイ」にはワークエンゲージメントが含まれることがある)。
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