効果は「総務」への相談件数でわかる! メンタル不調者を減らす「ラインケア教育」の極意
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今後ますます必要となる職場のメンタルヘルス対策。本連載では、多くの企業において職場のメンタルヘルス対策を長年支援してきた筆者が12回にわたって押さえるべきポイントを解説していく予定です。今回は、メンタルヘルス対策の中でも主要な役割を担う管理職の教育としてのラインケア研修について、その極意をお伝えします。
メンタルヘルス不調のよくある風景
「また突然うつで休職か……」という、総務担当者の苦悩に満ちた嘆き。ある日突然、ノーマークだった社員から長期療養の診断書が提出されるという傾向は、多くの会社に見られることです。せめてもっと早く相談してくれたら何かできたかもしれないのにと、悔しい思いをしている総務担当者もいらっしゃることでしょう。メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応をテーマにしたラインケア教育はこうした場面で一定の効果を上げます。また、一度に多くの管理職に教育ができる集合型の研修は効率が良い方法です。
教育研修の目的とゴール設定の必要性
先に挙げたような突然の休職を、現場で早期発見・早期対応してもらうことにより、もっと手前で防ぎたい。これはラインケア研修の主要な目的になります。このように、課題に対して適した解決法としてメンタルヘルス対策を機能させるために、まずは課題をよく整理しましょう。
課題の例
- (1)ストレスチェックの結果が悪い
- 高ストレス者割合が会社全体で20%を超える高さである
- ストレス反応の結果が全体的に全国平均よりも悪い
- 総合健康リスクが会社全体で120を超えている
- (2)メンタルヘルス不調による長期欠勤者が複数の部署から出ている
- (3)メンタルヘルス不調が原因と思われる離職者が複数の部署から出ている
これらのような課題がある場合に早期発見・早期対応を目的としたラインケア研修は効果を上げやすいです。
一方で、特定の部署や役職のみで繰り返し不調者や退職者が出るような場合、その部署や役職に特有の課題があるため全社画一的な研修はそれほど効果を上げない場合があります。そのような場合は、当該部署のメンバーのヒアリングや管理職による現状分析を踏まえて、管理職が組織を改善できるように会社として管理職を支援するといった対策が功を奏することがあります。課題に対して研修という方法が適切かどうか、まずはご検討ください。
どのような課題を解決するためにどのような目的で教育研修を実施するかが定まったら、次はゴール設定です。早期発見・早期対応でいえば、次のような3種類のゴール設定が考えられます。
- (1) 管理職が部下の不調やそのサインに気付き、対応について管理職から総務に相談できるようになること
- (2) 部下の不調やそのサインに気付いたら声をかけて傾聴を意識した面談を行い、不調の背景や健康状態を確認した上で総務に橋渡しできるようになること
- (3) (2)のような面談に加えて産業医面談や医療機関受診の勧奨を管理職から行い、その調整役として総務に橋渡ししたり、現状を総務と共有したりできるようになること
ゴール設定をどこに置くかによって、教育研修の講師を誰が務めるのか、研修の構成や内容をどうするのか、必要な時間をどれくらいに設定するのか、対面やオンラインの形式(ミーティング、ウェビナー等ライブ配信、オンデマンド配信)をどうするのかなどが決まってきます。
ゴール設定に応じた企画の例
- ゴール設定:(1)管理職にはとにかく気付いて総務に相談してほしい
講師:総務担当者
形式:オンライン(ミーティング)30~60分程度
内容:自社の現状・管理職に求められる役割・不調のサイン・総務担当者の役割 - ゴール設定:(2)面談までしっかりしてほしい
講師:外部の専門家
形式:動画配信30分程度
内容:管理職に求められる役割・不調のサイン・傾聴の方法とコツ・総務担当者の役割 - ゴール設定:(3)自分で専門家への相談を促してほしい
講師:外部の専門家
形式:対面120~180分程度
内容:管理職に求められる役割・不調のサイン・傾聴の方法とコツ・専門職への橋渡し法・総務担当者の役割・グループディスカッション・ロールプレイング
経営層からのメッセージがモチベーションとなる
企業として本気でメンタルヘルス不調者を減らしたい、精神的な健康度を上げてモチベーションや生産性向上を狙いたいということであれば、経営層から管理職に対して、会社の方針としてメンタルヘルス対策に力を入れていること、その一環としての重要な研修として開催することについてメッセージを発信してもらうことが有効です。
経営層の協力が得られないまでも、ラインケア研修の開催時はできるだけ上位職からその必要性や位置付け、管理職への期待について一言話していただくなり、メッセージを寄せていただくなりすると参加者のモチベーションも上がりやすいです。加えて、自社の長期欠勤者数や高ストレス者率の推移を示すと参加者はより身近に感じられるでしょう。
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