総務の引き出し(労働法)

テレワーク時の労働時間をどう把握する? 「事業場外みなし労働時間制」適用ガイドラインを解説

弁護士 安西 愈
最終更新日:
2023年08月21日
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事業場外みなし労働の対象になるのはどのようなケースか

事業場外みなし労働時間制とは、社外で労働する場合で、上司などから指揮監督を受けずに、自分の判断で業務を行うため、業務の遂行や業務の開始、終了など本人に委ねられている場合の労働時間の制度である。

この時間制度は、テレワーク勤務が職場において有効な新型コロナウイルス感染症対策であるとして政府から要請されたこともあり、導入が進んだ。この制度は労基法第38条の2に定めるもので、次の取り扱いがある。

1 原則-所定労働時間労働したものとみなす

労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。そして、労働時間の一部について事業場内で業務した場合には、当該事業場内の労働時間を含めて、所定労働時間労働したものとみなされる。

2 当該業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合は、当該必要時間労働したものとみなす

事業場の外で、使用者等の指揮命令を受けず自分の判断で働いた場合でも、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。労働時間の一部について事業場内で業務に従事した場合には、当該事業場内の労働時間と事業場外で従事した業務の遂行に必要とされる時間とを加えた時間労働したものとみなされる。なお、当該業務の遂行に通常必要とされる時間とは、通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間であること(昭和63.1.1基発第1号)。

なお、2の場合に、当該業務に関し、事業場の労働者の過半数労働組合があるときはその労働組合、そのような労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をしたとき(労基署への届け出が必要)は、その協定で定める時間を「通常必要とされる時間」とする。

この「みなし労働の対象」となるのは、以下の図表の場合である。

図表:事業場外みなし労働の対象

(※画像クリックで拡大)

テレワークの場合の「事業場外みなし労働時間制」の適用

テレワークは、事業主(使用者)の直接的な指揮命令を離れて、情報通信機器などにより、自宅やサテライトオフィス等、企業から離れた場所において上司等と連絡を取りながら自己の判断で業務を行うことが想定されている勤務である。そこで政府は「使用者がテレワークの場合における労働時間の管理方法をあらかじめ明確にしておくことにより、労働者が安心してテレワークを行うことができるようにするとともに、使用者にとっても労務管理や業務管理を的確に行うことができるようにすることが望ましい」(「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」、以下ガイドライン)とその拡大を志向している。

そして、テレワークの場合の「事業場外みなし労働時間制」適用について、ガイドラインでは次のように定められている。

事業場外みなし労働時間制は、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業場外で業務に従事することとなる場合に活用できる制度であるため、テレワークにおいて一定程度自由な働き方をする労働者にとって、柔軟な業務が可能となる。

その場合、次の(1)(2)をいずれも満たす場合には、「事業場外みなし労働時間」制度を適用することができる。

(1)情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態に置くこととされていないこと

次の場合については、いずれも(1)を満たすと認められ、情報通信機器を労働者が所持していることのみをもって、制度が適用されないことはない。

  • 勤務時間中に、労働者が自分の意思で通信回線自体を切断することができる場合
  • 勤務時間中は通信回線自体の切断はできず、使用者の指示は情報通信機器を用いて行われるが、労働者が情報通信機器から自分の意思で離れることができ、応答のタイミングを労働者が判断することができる場合
  • 会社支給の携帯電話等を所持していても、その応答を行うか否か、又は折り返しのタイミングについて労働者において判断することができる場合

(2)随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

以下の場合(2)を満たすと認められる。

  • 使用者の指示が、業務の目的、目標、期限等の基本的事項にとどまり、1日のスケジュール(作業内容とそれを行う時間等)をあらかじめ決めるなど作業量や作業の時期、方法等を具体的に特定するものではない場合

みなし労働でも「労働時間の状況」の把握は必要

労働時間がみなし時間となるセールス・外勤やテレワークなどの働き方でも、安衛法上の「労働時間の状況(在社時間であり、労働時間ではない)」の把握(同法第66条の8の3)は必要である。この労働時間の状況の把握とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものである。

事業主が労働時間の状況を把握する方法としては、原則として、タイムカード、パソコンなどの電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録、事業主(事業主から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む)の現認等の客観的な記録、また、事業場外のみなし労働の場合は、自己申告制でもよいが、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録などを把握しなければならないとされている。そして、毎月1回以上一定期日を定めて算定が必要で、これは健康管理上の医師面接の要否の判断に用いられている。

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著者プロフィール

写真(安西愈)

弁護士
安西 愈

労基署、労働省勤務を経て、1971年より弁護士(第一東京弁護士会)。第一東京弁護士会副会長、最高裁司法研修所教官、日弁連研修委員長、東京最賃審議会会長等歴任。著書に、『採用から退職までの法律知識』(第14版)ほか多数。

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