総務の引き出し(SDGs)

決算だけで自社の現状がわかっているつもり? ESG問題に向き合うために企業が把握すべきこと

小樽商科大学大学院 商学研究科 准教授 泉 貴嗣
最終更新日:
2023年08月17日
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自社がSDGsの実現に向かってチャレンジする、つまり経営にSDGsを実装するということは、自社がこれまで以上に「公器としての企業」の自覚を持ち、経済性だけでなく、社会性を高めることを意味します。そして、社会性を高めるということは、そもそも企業が自社の社会性を適切に把握していることが前提となります。今回は、この企業の社会性の把握について考えてみたいと思います。

企業は自社の経済性だけを考えていればよいのか

どんな企業でも年に1回は必ずやって来るイベントが「決算」です。みなさんもご存じのように、決算とは企業の一定期間の収益と費用を計算し、損益の状況を把握する営みです。つまり、決算とは1年間の企業活動の「経済性」を総括する行為だといえるでしょう。企業がお金を軸にして活動する以上、定期的に自社の経済性を総括することは、自社の現状やパフォーマンスの良否を判断し、今後の戦略を考える際に欠かせません。しかし、決算でわかることは、あくまでも自社の経済性に関する事柄に限られます。

企業は営利組織ではありますが、一方で「社会の一員」でもあります。自社のさまざまな活動は、自社が社会の一員であること、社会が持続可能であることを前提に成り立っているのです。そうなると、企業は自社の経済性だけに関心を持っていればよいのでしょうか? そもそも企業が自社の経済性ばかりに気を取られているからこそ、自分たちがつくり出した「ESG問題という経営課題」に悩まされているのではないでしょうか?

たとえばワーク・ライフ・バランスや女性の労働環境の整備を怠ってきたことによる人材難、環境経営を怠ってきたことによる気候変動、ゲリラ豪雨による生産性の低下や自然災害リスクの増加などは、企業が経済性ばかり重視してきたことの「ツケ」だといえるでしょう。これらのツケは、企業が自社の経済性「だけ」を考え、それに基づいて対策を取ればよいという考え方に、限界があることを示唆しているといえるのです。

なぜ企業は社会性を把握する必要があるのか

SDGsへのチャレンジは企業の生存戦略です。これは一過性の流行への便乗ではなく、中長期的な取り組みです。骨太な生存戦略を構想し、しっかりと実行するためには、自社のものの見方、考え方をSDGsに合わせて進化させる必要があります。そして、社会の一員として本業でESG問題に取り組んで成果を出し、社会から支持される形でビジネスを推進する必要があります。そこでカギとなるのが、企業が自らの経済性だけでなく、「社会性」をしっかりと把握することです。

決算は企業の経済性を把握するためのものですが、ESG問題に立ち向かわなければならない現在、自社の経済性だけを把握しても、自社の現状を把握することにはなりません。現状を的確に把握できなければ、不十分な情報に基づいて戦略を立てざるを得ないので、そのクオリティーが低下することを意味します。だからこそ、経済性と同じように自社の社会性を把握することが必要になります。

ここでいう社会性の把握とは、SDGsの実現に向けた企業活動の量や成果を測定することを意味します。なぜ社会性の把握が必要なのかといえば、企業の社会性は経済性と一体不可分の関係にあるからです。

たとえば、今までは品質や価格、納期ばかりに関心を寄せていた取引先も、ESG問題の深刻化に伴って、取引相手である自社の環境経営や社内の人権対応にまで関心を持ち、その対応、つまり社会性の向上を取引条件に含めてくるようになります。つまり、自社の経済性を高めようとすれば、社会性も高めることが車の両輪のように必要になるのです。そこで自社の社会性の向上が経営課題となるので、現状把握を始めることが必要になります。

自社の社会性の現状をより適切に把握する方法

では、その現状把握はどうすればよいのでしょうか? もちろん「セルフチェック」という方法も考えられますが、一企業が独自の観点で行うと、的な結果になる可能性が否めません。企業あるいは経営者の独善に基づき、社員ですら信用できないようなセルフチェックを行い、その結果を開示しても、それが経営にとってプラスになる可能性は少ないでしょう。

そこでオススメしたいのは、第三者の力を借りることです。第三者からの評価を受けることで、現状把握の客観性を確保し、周囲の理解を得やすくなるからです。また、男性の経営者などのバイアスなどによって、女性の活躍推進のようなテーマは社内で適切な評価を行うことが難しい場合もありますが、第三者の評価を受けることで、より適切に自社の社会性の把握ができるようになります。

現在、金融機関や経済団体によって「SDGs診断ツール」などの形で、企業の社会性を評価するサービスが提供されています。こういった第三者のサービスでは自社の社会性を高めるヒントも得られるので、積極的に利用してみるとよいでしょう。また、企業が自社の社会性を高めるには、PDCAサイクルを回すことが重要です。そのため、決算と同じように、定期的に自社の社会性を評価・把握する体制をつくることも心掛けましょう。

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著者プロフィール

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小樽商科大学大学院 商学研究科 准教授
泉 貴嗣

専門はサステナビリティ経営、ビジネス倫理。自治体の中小企業政策や中小企業のサステナビリティ経営の支援、上場企業の常勤監査役などを経て現職。著書に『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門〜中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則』(技術評論社)など。

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