総務の引き出し(SDGs)

あなたの会社とも深く関係している「生物多様性」 企業が行うべき保全に向けた取り組み

一般社団法人サステナブル経営推進機構(通称「SuMPO(さんぽ)」) 代表理事/専務理事 壁谷 武久
最終更新日:
2025年06月24日
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2022年に開催された「生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」では、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せることを目指す「ネイチャーポジティブ」が合意されました。企業においても、生物多様性保全に向けた責任と役割が問われており、その取り組みは今後の経営戦略において無視できない要素となっています。今回は、「SX経営」を目指す上で、気候変動問題と並んで重要な共通課題である「生物多様性」について、基本的な概念から企業経営への影響、国内外の動向、企業による実践的なアプローチまでを解説します。

生物多様性とは?

「生物多様性」とは、自然生態系を構成する動物、植物、微生物など地球上の豊かな生物種の多様性とその遺伝子の多様性、そして地域ごとのさまざまな生態系の多様性を指します。そして、地球の生態系においては、生物が絶えず生まれ、死に、エネルギーや水・物質が循環しています。生物多様性は、こうした自然界の営みを包括的に捉える考え方です。

「生物多様性」は、(1)さまざまな生態系の多様性、(2)生物種の多様性、(3)生物種内の遺伝的多様性の3つのレベルで構成されています。これらの多様性があることで、私たち人類は食料、水、木材等の自然資源を得られるだけでなく、自然災害の緩和や気候調整、病害虫の抑制といった恩恵(生態系サービス)を受けることができるのです。

しかし、近年の人間活動によって、生物多様性は急速に失われつつあります。森林破壊、過剰な漁獲、農薬の使用、外来種の持ち込みなどとともに、気候変動といった要因が複雑に絡み合い、多くの生物種が絶滅の危機に直面しています。国連の「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」が2019年に発表した地球規模評価報告書では、推計100万種以上が絶滅の危機にひんしていると警鐘を鳴らしています。

企業の役割と責任、経営への影響

人間の活動は、生物多様性由来の生態系サービスに大きく依存しています。これは、人間活動の一つである企業活動においても同様であり、原材料等としての供給サービスといった直接的な利用に加え、製品やサービスの提供に適した気象条件、災害からの安全性、清浄な空気・水の存在など、企業活動のあらゆる基盤が生態系サービスによって支えられています。

一方、企業活動は生態系サービスや生物多様性に対してさまざまな負の影響を及ぼしており、その負荷は、経済活動の飛躍的な拡大に伴い著しく増加しています。さらに、生態系サービスの多くは公共財的な性質を持つため、その被害は、企業にとどまらず、同じ生態系サービスを享受している他の主体にもおよんでいます。つまり、企業は生物多様性に対して「影響を与える立場」と「依存する立場」の両方にあるのです。

このような背景の下、企業には以下のような責任とリスク・機会が存在します。

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プロフィール

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一般社団法人サステナブル経営推進機構(通称「SuMPO(さんぽ)」) 代表理事/専務理事
壁谷 武久

経済産業省を経て、2007年4月、一般社団法人産業環境管理協会に転籍。2019年6月、一般社団法人サステナブル経営推進機構を設立、同10月に同機構に移籍し現在に至る。2023年10月、株式会社LCAエキスパートセンターを設立、代表取締役社長に就任。現在は、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)戦略の実現に取り組んでおり、企業経営や地域経営における未来戦略作りにチャレンジ中。

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