総務の引き出し(SDGs)

私たちの暮らしと企業戦略をつなぐSDGs 身近な「衣・食・住」から考えるサステナブル経営

一般社団法人サステナブル経営推進機構(通称「SuMPO(さんぽ)」) 代表理事/専務理事 壁谷 武久
最終更新日:
2025年09月25日

サステナビリティというと、つい企業の経営戦略や技術革新に意識が向きがちですが、私たちの生活そのもの、すなわち「衣・食・住」についてはどうでしょうか。実はこの問題こそ、最も身近で、われわれの生活基盤に深く根を下ろしています。使用済み衣服の大量廃棄や食料品の輸入の海外依存、製品機能の寿命の長い建築物、いずれも、私たちの日常を支えているものですが、その裏側には気候変動や資源枯渇、生態系破壊といった重い課題が横たわっています。
今回は、「衣・食・住」という身近なテーマから、企業・総務部門が果たすべき役割を考えてみたいと思います。私たちが日々かかわる空間・商品・サービスの選択が、未来の地球環境と経済の持続可能性を左右していることにあらためて気付かされるはずです。

ファストファッション問題と日本の衣料事情

近年、ファストファッションの台頭により、衣料品はかつてないスピードで生産・流通・消費され、そして廃棄されています。環境省の「2024年度循環型ファッションの推進方策に関する調査参考)」によれば、日本では年間約82.2万tの衣類が消費される一方で、そのうちおよそ約55.8万tが廃棄されているとされ、そのうちの4万tは事業所から排出されています。

また、国内に供給されている衣類から排出されるCO2(原材料調達から廃棄まで)は9500万tと推計され、世界のファッション産業から排出されるCO2の4.5%に相当します。うち輸送までの上流段階で全体の94.6%を占めており、 服1着を生産するにあたって排出されるCO2は25.5kgと推計されています。

同様に衣類の製造には、膨大な水資源が使われており、国内に供給される衣類の生産に必要な水の量は83.8億㎥と推計され、世界のファッション産業で消費される水の9.0%に相当、うち原材料調達段階が91.6%を占めています。ちなみに83.8億㎥という水消費量は日本国内で消費される水利用の10.4%もの量に相当するものとなっています。

こうした背景から、国際的にも繊維産業の脱炭素化・循環化が進んでいます。欧州では、「EU繊維戦略(EU Strategy for Sustainable and Circular Textiles)」が2022年に策定され、2030年までに全ての衣類をリサイクル可能・再使用可能にする方針が打ち出されています。また、日本でも経済産業省が「サーキュラー・ファッション」政策を掲げ、再生繊維やリユース市場の活性化支援を進めています。

企業では、リサイクルポリエステルやセルロース系繊維(テンセル、レーヨンなど)の使用が拡大し、ユニフォームなどに再生素材を導入する企業も増えています。また、廃棄衣料をリサイクルして断熱材・自動車内装材に再利用するなど、異業種連携による「循環型ファッションエコシステム」の構築も始まっています。

また、最近では、服を所有せずにレンタルするサブスクリプション型サービスや、フリマアプリを通じたリユース市場の活性化もその一端を担っています。総務部門としては、自社の制服や作業着の調達においてこうした取り組みを積極的に取り入れるとともに、社内での「衣に対する意識改革」を促す取り組み(寄付・リユース推進キャンペーンなど)など、多様な対応が可能であり、早期にこうした対応に着手することが望まれます。

図表1 持続可能な「衣」に取り組む国内の主な企業事例

※掲載されている情報は記事公開時点のものです。最新の情報と異なる場合があります。

続きは「月刊総務プレミアム」をご契約の会員様のみお読みいただけます。

  • ・さらに有益な付加価値の高い有料記事が読み放題
  • ・ノウハウ習得・スキルアップが可能なeラーニングコンテンツも割引価格でご利用可能に
  • ・「月刊総務デジタルマガジン」で本誌「月刊総務」も読み放題
  • ・本誌「月刊総務」も毎月1冊、ご登録いただいたご住所にお届け

プロフィール

一般社団法人サステナブル経営推進機構(通称「SuMPO(さんぽ)」) 代表理事/専務理事
壁谷 武久

経済産業省を経て、2007年4月、一般社団法人産業環境管理協会に転籍。2019年6月、一般社団法人サステナブル経営推進機構を設立、同10月に同機構に移籍し現在に至る。2023年10月、株式会社LCAエキスパートセンターを設立、代表取締役社長に就任。現在は、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)戦略の実現に取り組んでおり、企業経営や地域経営における未来戦略作りにチャレンジ中。

総務の引き出し(SDGs)」の記事

2025年09月25日
私たちの暮らしと企業戦略をつなぐSDGs 身近な「衣・食・住」から考えるサステナブル経営
2025年08月26日
今や環境問題にとどまらない経営の重要テーマに! 水が豊富なはずの日本に迫る「水リスク」とは
2025年07月24日
総務の小さな一歩が意識を変える 廃棄ゼロから資源循環を目指す「サーキュラーエコノミー」とは
2025年06月24日
あなたの会社とも深く関係している「生物多様性」 企業が行うべき保全に向けた取り組み
2025年05月28日
気候変動への対応は単なる「コスト」じゃない カーボンニュートラル実現が企業のチャンスに
2025年04月23日
「サステナブル・デザイン」が、自社の未来と利益につながるわけ 今求められるSX経営
2025年03月26日
これからの地域連携では「エシカル消費」がキーワードに? 変わりゆく企業の社会貢献
2025年02月27日
LGBTQ当事者は職場でどんなことに困っている? 企業による性的マイノリティ支援の取り組み
2025年01月28日
進む高齢化……誰もが働きやすい環境づくりを目指すために企業ができる取り組み
2024年12月25日
働きやすい環境づくりには相互理解が重要に 業種別に見る外国人雇用の課題と対応ポイント
2024年11月26日
障がい者とともに成長できる企業を目指すには? 障がい者雇用の課題と活用法のヒント
2024年10月23日
ポイントはワーク・ライフ・バランス 誰もが働きやすい組織づくりが女性活躍推進につながる
2024年09月26日
ダイバーシティ経営=女性活躍推進という思い込み 日本での実現を阻む3つの壁
2024年08月22日
ダイバーシティ経営成功のカギは「管理職の理解度」 無意識の偏見に気付き多様性を認める職場へ
2024年07月29日
目標が「女性管理職の比率を上げる」なら逆効果に ダイバーシティ経営を推進させる第一歩とは
2024年06月27日
多様な人材を生かすには? 誰もが活躍できる職場づくりに必要な「インクルージョン」の考え方
2024年05月23日
「ダイバーシティ経営」実は中小企業にこそ大きな効果 成功につなげる7つのアクションとは
2024年03月06日
自社だけで取り組むのは難しい…… SDGs推進を成功させるための上手な専門家との付き合い方
2024年02月16日
それ、時代に合ってますか? SDGsとビジネスの両立に求められるコンプライアンスの在り方
2024年01月19日
独り善がりSDGsにおさらば! 企業価値向上につながる「コンセプト」の作り方
2023年12月08日
そこに「パーパス」はあるんか? ―― 今、 御社の「SDGs」に対する本気度が問われている
2023年11月09日
SDGsの話題は「青くさい」と笑われる…… メンバーの心理的安全性を損なわせる経営層の対応
2023年10月12日
これからの戦略総務にとって重要な役割に? 地域との良好な関係構築が事業活動の安定につながる
2023年09月21日
「会社で初詣に行く」は人権問題になり得る? 総務担当者が考えておくべき「企業と宗教」
2023年08月17日
決算だけで自社の現状がわかっているつもり? ESG問題に向き合うために企業が把握すべきこと
2023年07月13日
ESGは「投資」だけじゃない! 総務部門が把握しておくべき、自社の「ESG問題」とその対応
2023年06月14日
企業だけでDE&Iは実現しない。育児・LGBTQ等当事者の声をくみ取るボトムアップの仕組み
2023年05月08日
ダイバーシティ&インクルージョンの進化形「DE&I」が、人事戦略の重要テーマとして注目されるわけ
2023年04月12日
「やっているフリ」が自社の首を絞める ―― 「SDGsウォッシュ」を予防するたった1つの方法
2023年01月27日
記録という「資産」がSDGsの実践を強化する
2022年11月24日
SDGsの担い手としてあるべき姿勢とは
2022年09月26日
SDGsを着実に進めるために、従業員の「やる気」を刺激しよう
2022年07月22日
「SDGs リテラシー」を身に付けよう
2022年05月17日
採用で自社のSDGsが問われる時代に
2022年03月15日
企業のSDGsとのかかわり方

特別企画、サービス