総務の引き出し(労務管理)
異議申し立ての権利は労働者のみ……企業が「労災認定」に不満を抱いたら覆せる? 最高裁判決は?
岡田人事労務管理事務所 所長、株式会社ワーク・アビリティ 代表取締役 岡田 良則
最終更新日:
2024年09月05日
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2024年7月4日、最高裁判所第一小法廷は、労働者の病気やけがを国が労災と認定した際に、それに対して事業主は不服を申し立てることができないとする初めての判断を示しました。この判決は、労災保険制度の「メリット制」による保険料増額の影響を受ける事業主が、労災認定に対して異議を申し立てることができるかどうかを巡る訴訟の上告審で下されたものです。最高裁は、「労働者の迅速かつ公平な保護」という労災保険法の趣旨を尊重し、事業主の不服申し立てを認めないと判断しました。
労災保険制度の「メリット制」は災害防止の動機になるのか?
労災保険制度には、「メリット制」という仕組みがあります。これは、事業所ごとの労災発生状況に応じて保険料率を調整する制度です。全ての事業所がメリット制の対象となるわけではなく、一定規模以上の事業所が対象となります。
具体的には、過去の一定期間における労災保険の収支率(給付額と保険料の比率)を基に、保険料率を増減させる仕組みです。労災が少なければ保険料が減り、多ければ増えるという形です。
メリット制は、事業主に対して労働災害を防止するインセンティブを与えることを目的としています。安全管理に取り組み、労災を減らすことができれば、保険料が安くなるため、事業主にとっては経済的なメリットがあります。
しかし、この制度が本当に災害防止の動機になるのか疑問視する声もあります。それどころか実際には、保険料が増えることを避けるために労災事故を隠蔽する事例も報告されており、メリット制が「労災隠し」を誘発しているという指摘もあります。
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