総務の引き出し(労務管理)

「年収の壁」で問題視されるもいまだ5割以上が支給 「配偶者手当」を見直すための4ステップとは

岡田人事労務管理事務所 所長、株式会社ワーク・アビリティ 代表取締役 岡田 良則
最終更新日:
2024年01月17日
202401g_00

配偶者の扶養の範囲内で働くパートタイマーなどが、収入が一定額を超えないように就業調整を行う「年収の壁」問題に対して、厚生労働省が「年収の壁・支援強化パッケージ」を公表しました。社会保険料の負担を軽減するための助成金がメインとなっていますが、企業が支給する「配偶者手当」に対しても見直しを促進するための取り組みを行っています。

共働き世帯の増加、男性の未婚率の上昇。配偶者手当を支給する企業の割合は?

配偶者手当とは、配偶者がいる従業員に対して会社から支給される手当のことです。企業によって「家族手当」「扶養手当」などの名称で支給されることもあります。高度経済成長期には「家事・育児に専念する妻」と「仕事に専念する夫」といった夫婦間の性別役割分業が一般的であり、長期雇用を前提とした日本的雇用慣行と相まって配偶者手当が定着してきました。

しかし、現在は社会の実情が大きく変わっています。夫婦のいる世帯のうち共働き世帯は7割を超え、男性の未婚率も大きく上昇しています。こうしたライフスタイルの変化、価値観の多様化などに合わせ、配偶者手当を見直す企業も増えているようです。

人事院の調査結果によると、「家族手当」を支給する企業の割合はほとんど変わっていないのに対し、「配偶者手当」(※)を支給する企業の割合は2014年の71.1%から2023年には56.2%まで減少しています。

図表1:家族手当と配偶者手当の支給割合

出所:人事院「職種別民間給与実態調査」を基に作成
(※画像クリックで拡大)

しかしながら、いまだに56.2%の企業では配偶者手当が支給されており、そのうち8割以上の事業所で配偶者の収入による制限が設けられています。

図表2:配偶者手当の支給状況

出所:人事院「令和5年職種別民間給与実態調査」を基に作成
(※画像クリックで拡大)

配偶者手当の何が問題なのか?

令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、夫がいるパートタイマーの21.8%は、所得税や社会保険、夫の勤務先で支給される「配偶者手当」などを意識して、年収が一定額を超えないように就業調整を行っているといいます。本当はもっと働ける場合でも、収入が一定額を超えると世帯全体の手取り収入が減ってしまうことになるため、あえて働く時間を短くしているのです。いわゆる「年収の壁」問題です。

夫がいるパートタイマーたちがこのような就業調整を行うことによって、さまざまな影響が生じています。たとえば以下のようなものです。

  • 繁忙期である年末の人材確保が困難になる
  • 正社員など同じ職場の労働者の負担が増す
  • パートタイマー全体の時給相場が上がりにくくなる
  • 女性が能力を十分に発揮できない要因の一つとなる
  • 日本経済全体にとって、人的資源を十分に活用できなくなる

深刻な人手不足の中、このような理由で人材確保が困難になるのは企業にとっては悩ましい問題です。また、賃上げの流れが広がりつつある中で、時給を上げるとさらにパートタイマーが働く時間を減らしてしまうというジレンマもあるようです。

こうした中、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」という対策を打ち出しました。先ほど、「所得税や社会保険、配偶者手当を意識して就業調整を行っている」と書きましたが、社会保険の問題(夫の扶養から外れると保険料負担が増えて手取りが減る)については、助成金の支給や特例的な措置を設けるなどの対策を講じています。所得税については、そもそも配偶者に関して段階的な設計となっているため、何万円を超えたら突然手取り収入や世帯収入が大幅に減るといった「壁」は実際にはありません。

残るは、配偶者手当の問題です。配偶者手当については、国の制度ではなく各企業で設けている制度であるため、企業内での見直しが求められるところです。冒頭で、徐々に見直しが進んでいるものの、まだ5割以上の企業で配偶者手当が支給されていると紹介しました。

厚生労働省では、さらなる見直しが進むよう、「配偶者手当見直し検討のフローチャート」や手引き「『配偶者手当』の在り方の検討に向けて」などの資料を公開しています。次のページで内容を抜粋してご紹介しましょう。

続きは「月刊総務プレミアム」をご契約の会員様のみお読みいただけます。

  • ・付加価値の高い有料記事が読み放題
  • ・当メディア主催の総務実務の勉強会や交流会などのイベントにご優待
  • ・「月刊総務デジタルマガジン」で本誌「月刊総務」も読み放題
  • ・本誌「月刊総務」も毎月1冊、ご登録いただいたご住所にお届け
  • ・ノウハウ習得・スキルアップが可能なeラーニングコンテンツも割引価格でご利用可能に

※掲載されている情報は記事公開時点のものです。最新の情報と異なる場合があります。

著者プロフィール

120216_ALIA8499 (2)

岡田人事労務管理事務所 所長、株式会社ワーク・アビリティ 代表取締役
岡田 良則

企業の就業規則の作成、人事制度の構築などのコンサルティングのほか、労務情報の提供事業などを行う。著書に『人材派遣のことならこの1冊』『就業規則と人事・労務の社内規程集』『サクッと早わかり! 働き方改革法で労務管理はこう変わる』『サクッと早わかり! パワハラ防止法の労務実務』(いずれも自由国民社)ほか。

総務の引き出し(労務管理)」の記事

2024年11月07日
PayPayが初の資金移動業者になって再注目されるデジタル給与払い。導入に必要な手続きは?
2024年10月04日
10月からパートタイマーの社会保険の適用が拡大 加入対象の4つの要件と企業が対応すべきこと
2024年09月05日
異議申し立ての権利は労働者のみ……企業が「労災認定」に不満を抱いたら覆せる? 最高裁判決は?
2024年08月07日
10割支給は本当? 2025年4月より拡充。法改正で新設された2つの育児休業給付を詳しく解説
2024年07月04日
非正規との待遇差の理由は? 「同一労働同一賃金」の徹底に向け、今年度労基署が積極指導
2024年06月13日
適用対象が週10時間以上の労働者へと拡大 来年4月より順次施行予定の「改正雇用保険法」を解説
2024年05月14日
定年の年齢を変える必要は? 来年3月に経過措置終了で復習しておきたい65歳までの雇用確保義務
2024年04月11日
2025年度以降にどんな改正がある? 育児・介護休業法で検討されている見直し案をまとめて紹介
2024年03月21日
社員が受診を拒否したら?  法改正で何が変わる? 定期健診のよくある10の疑問に答えます
2024年02月20日
パートタイムのシフト、増やしてOK? 繁忙期の人手不足を解消する「130万円の壁」への対応策
2024年01月17日
「年収の壁」で問題視されるもいまだ5割以上が支給 「配偶者手当」を見直すための4ステップとは
2023年12月14日
年収「106万円」「130万円」の壁問題 助成金や特例措置など手取りを減らさない4つの支援策
2023年11月17日
改正で厳格化 ボーナスシーズン前に復習しておきたい、育児休業中の「賞与保険料免除」要件
2023年10月19日
定年後再雇用で大幅減額は妥当か ―― 最高裁の判決から考える基本給の「同一労働同一賃金」
2023年09月26日
精神障がいの労災認定基準が2023年内に見直し 「カスハラ」「SOGIハラ」などが追加に
2023年08月18日
年次有給休暇の違反件数が3倍に急増! あらためて確認しておきたい法改正による「時季指定義務」
2023年07月21日
継続導入の場合は3月中に手続きを 2024年4月施行「裁量労働制」の改正、実務への影響
2023年06月23日
2024年4月以降の締結・更新は要注意! 労働条件の明示ルール改正で気を付けておくべき4項目
2023年05月16日
待遇差が問題にならない例も 施設利用や病気休職など同一労働同一賃金「福利厚生」ガイドライン
2023年05月15日
あなたの会社は対応している? 「同一労働同一賃金」ルールで見落としがちな「福利厚生」の待遇
2023年04月17日
2024年4月から段階的に引き上げ予定の障害者雇用率 自社で雇用すべき人数は?
2021年12月15日
1月から始まるマルチジョブホルダー制度とは
2021年12月06日
育児休業給付金の延長、「保育所に入れない場合」の具体例
2021年09月17日
労災保険の特別加入の対象拡大
2021年08月17日
育児・介護休業法等の改正ポイント

関連記事

  • 【AI×交通安全運動】111社が共同で事故リスク削減に取り組んだ2か月間……その結果は? PR
  • オフィスの課題解決はデータ収集から 社員の位置情報を自動で管理しフリーアドレスを効率化 PR
  • 大切なのは「自社ならでは」のオフィスづくり 社員の「心」を解析すると幸せな働き方が見えてくる PR

特別企画、サービス