「年収の壁」で問題視されるもいまだ5割以上が支給 「配偶者手当」を見直すための4ステップとは
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配偶者の扶養の範囲内で働くパートタイマーなどが、収入が一定額を超えないように就業調整を行う「年収の壁」問題に対して、厚生労働省が「年収の壁・支援強化パッケージ」を公表しました。社会保険料の負担を軽減するための助成金がメインとなっていますが、企業が支給する「配偶者手当」に対しても見直しを促進するための取り組みを行っています。
共働き世帯の増加、男性の未婚率の上昇。配偶者手当を支給する企業の割合は?
配偶者手当とは、配偶者がいる従業員に対して会社から支給される手当のことです。企業によって「家族手当」「扶養手当」などの名称で支給されることもあります。高度経済成長期には「家事・育児に専念する妻」と「仕事に専念する夫」といった夫婦間の性別役割分業が一般的であり、長期雇用を前提とした日本的雇用慣行と相まって配偶者手当が定着してきました。
しかし、現在は社会の実情が大きく変わっています。夫婦のいる世帯のうち共働き世帯は7割を超え、男性の未婚率も大きく上昇しています。こうしたライフスタイルの変化、価値観の多様化などに合わせ、配偶者手当を見直す企業も増えているようです。
人事院の調査結果によると、「家族手当」を支給する企業の割合はほとんど変わっていないのに対し、「配偶者手当」(※)を支給する企業の割合は2014年の71.1%から2023年には56.2%まで減少しています。
しかしながら、いまだに56.2%の企業では配偶者手当が支給されており、そのうち8割以上の事業所で配偶者の収入による制限が設けられています。
配偶者手当の何が問題なのか?
「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、夫がいるパートタイマーの21.8%は、所得税や社会保険、夫の勤務先で支給される「配偶者手当」などを意識して、年収が一定額を超えないように就業調整を行っているといいます。本当はもっと働ける場合でも、収入が一定額を超えると世帯全体の手取り収入が減ってしまうことになるため、あえて働く時間を短くしているのです。いわゆる「年収の壁」問題です。
夫がいるパートタイマーたちがこのような就業調整を行うことによって、さまざまな影響が生じています。たとえば以下のようなものです。
- 繁忙期である年末の人材確保が困難になる
- 正社員など同じ職場の労働者の負担が増す
- パートタイマー全体の時給相場が上がりにくくなる
- 女性が能力を十分に発揮できない要因の一つとなる
- 日本経済全体にとって、人的資源を十分に活用できなくなる
深刻な人手不足の中、このような理由で人材確保が困難になるのは企業にとっては悩ましい問題です。また、賃上げの流れが広がりつつある中で、時給を上げるとさらにパートタイマーが働く時間を減らしてしまうというジレンマもあるようです。
こうした中、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」という対策を打ち出しました。先ほど、「所得税や社会保険、配偶者手当を意識して就業調整を行っている」と書きましたが、社会保険の問題(夫の扶養から外れると保険料負担が増えて手取りが減る)については、助成金の支給や特例的な措置を設けるなどの対策を講じています。所得税については、そもそも配偶者に関して段階的な設計となっているため、何万円を超えたら突然手取り収入や世帯収入が大幅に減るといった「壁」は実際にはありません。
残るは、配偶者手当の問題です。配偶者手当については、国の制度ではなく各企業で設けている制度であるため、企業内での見直しが求められるところです。冒頭で、徐々に見直しが進んでいるものの、まだ5割以上の企業で配偶者手当が支給されていると紹介しました。
厚生労働省では、さらなる見直しが進むよう、「配偶者手当見直し検討のフローチャート」や手引き「『配偶者手当』の在り方の検討に向けて」などの資料を公開しています。次のページで内容を抜粋してご紹介しましょう。
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