『月刊総務』調査

介護・治療と仕事の両立支援は進んでいない実態が明らかに。介護状況の実態把握にも課題あり

月刊総務 編集部
最終更新日:
2024年04月05日
20240405_『月刊総務』調査結果

『月刊総務』は、全国の総務担当者を対象に「育児や介護・治療と仕事の両立支援についての調査」を実施し、131人から回答を得た。

  1. 調査結果 概要

「ダブルケア」の理解は約3割にとどまる

「ダブルケア」とはなにか知っているか尋ねたところ、よく理解しているのは1割未満にとどまり、3割以上が言葉を聞いたことがないと回答した(n=131)。
※ダブルケア:子育てと親や親族の介護を同時に担う状態。

グラフ1

育児や介護による休業や退職、雇用形態の変更は、男性より女性の方が多い傾向

育児や介護を理由に退職・休職した社員がいるか尋ねたところ、育児は退職・休職ともに女性の方が対象者が多いことがわかった。介護は男女差はあまり見られないが、育児に比べて男性の退職者が多いことがわかった(n=131)。

グラフ2

両立のために雇用形態の変更をした社員がいるか尋ねたところ、約4割の企業で育児のために雇用形態を変更した女性社員がいることがわかった。育児と介護においては女性の方が該当者が多く、男女で負担に偏りがあるとみられる(n=131)。

グラフ3

両立支援のために実施していることは育児休業・介護休業制度の導入が多数

両立支援のために実施していることについて尋ねたところ、「育児休業制度の導入」が87.0%で最も多く、「介護休業制度の導入」が78.6%、「柔軟な働き方の推進」が64.1%と続いた(n=131)。

グラフ4

両立支援制度の利用について、育児は女性が多く、介護は男女差はないとの回答が多数

両立支援制度を利用している社員の男女比率について尋ねたところ、介護は約7割が「男女差はない」と回答し、育児は7割以上が「女性が多い」と回答した(n=131)。

グラフ5

約8割が自社は育児休業が取りやすい文化だと回答。一方、介護休業が取りやすい文化だと思う企業は約6割にとどまる

自身の会社が育児休業を取りやすい文化だと思うか尋ねたところ、約8割が取りやすいと回答した。同様に介護休業についても尋ねたところ、取りやすいと回答したのは約6割で、介護休業は育児休業と比べるとまだ浸透していないことがわかる(n=131)。

グラフ6

介護休業の取得目的は「直接介護をする必要があるため」が最多。約4割は取得目的を把握していない

介護休業を取得した従業員の取得目的について尋ねたところ、「直接介護をする必要があるため」が45.0%で最多となった。また、約4割が介護休業の取得目的を把握していないこともわかった(n=131)。

グラフ7

休業した従業員の業務調整は「現場のメンバーによる分担」が最多。介護と治療による休業は、約3割が会社による業務調整なしで現場への負担の懸念あり

休業した従業員の業務をどのように調整しているか尋ねたところ、育児、介護、治療の3つ共通で、「現場のメンバーによる分担」が最多となった。また、介護と治療による休業は約3割が「会社として調整はしていない」と回答した(n=131)。

グラフ8

休業した従業員がいる際、他の従業員に対するフォローは約半数が実施しておらず、今後「人員の増強」を行いたい意向

休業した従業員がいる際に、他の従業員に対してフォローを行っていること、及びこれから強化したいことについて尋ねたところ、約半数が現在実施していることはなく、強化したいことは「人員の増強」が最多となった(n=131)。

グラフ9

<その他、実施している・これから実施したいフォロー内容 / 一部抜粋>

  • 企業内保育園を設け、早期復職が可能な環境を作っている
  • 積立休暇制度

<フォローを行っていない理由 / 一部抜粋>

  • コストがかかるから。
  • 手が回っていないから。
  • 増員した人員を教育する時間のある人員がいないから。

休業からの復職支援、育児と介護は「業務の引き継ぎやサポートの徹底」、治療は「仕事内容の見直し」が最多

休業した従業員がスムーズに復職するためにどのような支援策を設けているか尋ねたところ、育児と介護は「業務の引き継ぎやサポートの徹底」、治療は「仕事内容の見直し」が最多となった(n=131)。

グラフ10

4割以上が、介護・治療の両立支援に関する制度の通知・取得促進を何もしていない

両立支援に関する制度の通知・取得促進をどのような方法で行っているか尋ねたところ、育児は「相談窓口の設置」が40.5%で最多となった。介護については42.0%、治療については48.9%が「何もしていない」と回答した(n=131)。

グラフ11

<その他、実施していること / 一部抜粋>

  • 治療に関しては会社負担でがん保険、入院保険、治療保険に加入。入院した際に個人に負担がかからず、安心できるようにしている。
  • 育児に関しては周知がなされ従業員の認識も高いが、介護や治療による休暇・休業制度の利用や両立支援に関する認識はまだ低い部分があるので、社内報などでの通知の他、取得する社員の連絡や取得した社員からの口コミなども含め、社内に啓蒙と認知を促している。

両立支援の課題は「現場従業員の負担増」が最多

両立支援の課題や問題点について尋ねたところ、育児・介護・治療の全てにおいて、7割以上が「現場従業員の負担増」と回答した(n=131)。

グラフ12

<その他の課題 / 一部抜粋>

  • 育児や治療は本人からの声が聞き取りやすいが介護になると抱え込んでオープンにしない雰囲気がまだまだある。
  • 助成金等で休業中の金銭的負担や、業務代行社員の負担を減らそうとする政府の考えも理解できるが、制度に対応する管理業務担当者の仕事が増えすぎる。
  • 介護や治療に関するものは、デリケートな内容を含む場合が多く、内容の周知と周囲から理解を得る上での情報開示レベルに難しさと言うか課題感を感じている。

育児・介護・治療に関する実態把握は、いずれも「本人からの申し出」が最多

どのような方法で育児・介護・治療に関する実態把握をしているか尋ねたところ、いずれも「本人からの申し出」が最多となった(n=131)。

グラフ13

両立支援の自社評価、育児は7割以上が「推進されている」、介護と治療は約6割が「推進されていない」と回答

自社の両立支援をどう評価するか尋ねたところ、育児については7割以上が「推進されている」と回答した一方で、介護と治療は約6割が「推進されていない」と回答した(n=131)。

グラフ14

総評

今回の調査では、育児に対する支援は制度やそれを使用する文化の形成が進んでいる一方で、介護や治療に対する制度や理解はまだ浸透していないことがわかった。また、育児や介護は女性に負担が偏る傾向にあることも明らかになった。

子育てと親や親族の介護を同時に担う状態である「ダブルケア」に直面する人は全国に少なくとも29万人いるといわれる。その9割を30~40代の働く世代が占め(※)、介護離職の問題は今後ますます深刻化すると考えられる。

現在はまだ該当者が少なかったとしても、会社の対応方針を若い世代が見ている。自身はまだその問題に直面せずとも、上の世代の様子や会社の対応を見て、不足や心配があると「この会社で長く働くのは難しい」と判断し転職のきっかけになる可能性もあるだろう。「平均年齢も若いからまだ大丈夫」と対応を先延ばしにしてはいけない。早くから手を打つことが求められる。
※出所:毎日新聞(2024年1月22日)


【調査概要】
調査機関:自社調査
調査対象:『月刊総務』読者、「月刊総務オンライン」メルマガ登録者ほか
調査方法: Webアンケート
調査期間:2024年2月14日〜2024年2月21日

■調査結果の引用時のお願い
本調査内容を転載・ご利用いただく場合は、出典元の表記をお願いします。
例:「『月刊総務』の調査によると」「『月刊総務』調べ」など

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