総務の引き出し(広報)

【9月1日は防災の日】関東大震災から100年を契機に進めておくべき危機管理広報の取り組み

株式会社タンシキ  代表取締役 秋山 和久
最終更新日:
2023年08月22日
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死者10万人以上の被害が出た関東大震災は1923年9月1日に発生しました。今年が2023年ですので、ちょうど100年前になります。毎年9月1日は「防災の日」、同日を含む8月30日から9月5日までが「防災週間」です。この時期に防災に関する取り組みをする企業は多いでしょう。緊急安否システムを導入している場合はシステムの試験運用を実施したり、一部社員が避難訓練に参加したりすることも多いのではないでしょうか。

一方、危機管理広報の領域でいうと、日々、さまざまな企業・組織・団体の不祥事・トラブルが報道されていますが、備えが十分とはいえない実態があります。電通パブリックリレーションズ内の企業広報戦略研究所が上場企業の広報責任者を対象に調査した2018年のデータでは、「継続的に緊急時シミュレーショントレーニングを実施している」が21.2%、「継続的に模擬緊急記者会見を実施している(メディアトレーニングなど)」が16.4%、「広報対応についても具体的に記載された危機管理マニュアルが整備されている」も32.8%にとどまっています。今回は、なぜこうした実態にあるのかを解説しつつ、「防災の日」をフックに危機管理広報の強化につなげる方法をご紹介します。

不祥事への対応は一部に過ぎない。危機管理広報における4つのタイプの業務とは

危機管理広報とは、何らかの事案に起因して、企業や製品・サービスに対するステークホルダーの態度(主に評価)が悪化しかねない状態のときに行う一連の広報活動のことを指します。

一般的には不祥事などの緊急記者会見や公表をイメージすることが多いでしょう。ただ、これらの業務は危機管理広報の中の一部。危機管理広報は、大きく以下の4つタイプの仕事があります。

  1. 重大イベント対応業務:M&A、リストラ、業績悪化、料金改定などステークホルダーの態度が悪化しかねない大きなイベントに向けて、意図的・計画的に受容度・許容度向上を目指す広報活動
  2. トラブル対応業務:不祥事、事件・事故など即時的に対応が必要になる事案の広報活動(一般的に危機管理広報といわれるもの)
  3. リカバリー対応業務:重大イベントやトラブル後にステークホルダーの態度が悪化した場合に、信頼回復をはかる広報活動
  4. 各種対応力向上業務:平時において文書整備(マニュアルなど)、研修・トレーニング、啓発などを体系的に実施し、各種対応力の向上をはかる業務

危機管理広報の実施率が低い理由は「きっかけがない」?

そもそも危機管理広報は、一度でも重大イベントやトラブルを経験したことがある企業でなければ、経営層を含む社内の関心が低いテーマです。通信、電力、ガス、鉄道などユニバーサルサービスの性質を持つ社会インフラであれば、何らかのトラブル対応は日々発生しますが、一般企業の場合、危機管理広報が必要になるような事案はめったに発生しません。問題が起きてからでないと経営層や社内の各部署が本気にならず、危機管理広報の取り組みを進める「きっかけ」自体がありません。危機管理広報は、「手を付けにくい」性質があります。こうした背景から、危機管理広報の具体的な取り組みは、上場企業でもほとんど実施できていません。

広報部門が重要性を認識していても実質手付かずの状態になってしまうため、問題が少ない企業ほど危機管理広報のノウハウが社内に蓄積されません。何か重大イベントやトラブルが発生したときに、普段、問題が少ない企業ほど失敗してしまうのです。

9月1日の「防災の日」をきっかけに一歩を踏み出す。まずは社内共有から

一般的に危機管理広報の取り組みは、マニュアルづくりやメディアトレーニング(模擬記者会見)が頭に浮かぶはずです。これらの取り組みはノウハウや外注が必要になり、予算化していないとすぐに着手することは困難な場合が多いでしょう。また、上記のように「きっかけ」がなかなかありません。

危機管理広報で、最も手軽に実施でき、かつ、一定の効果が期待できるのは「事例」の社内共有です。これは、他社の重大イベント対応やトラブル対応の概要についてA4判で数枚程度の資料にまとめ、経営層や関連部署に送付・共有するものです(資料送付ではなく短時間でレクチャーをする場合もあります)。

資料にまとめる要素は主に以下の6つです。

  1. 発生事象の概要(どの会社で・いつ・何が起き・どの程度の影響があったのか)
  2. 広報対応(公表、HP、SNSなどの発信状況・内容を時系列でまとめる)
  3. 報道状況(新聞・TVの報道状況・内容・論調をまとめる)
  4. ステークホルダーの反応(SNS投稿内容の傾向や株価の変動状況などをまとめる)
  5. 成否のポイント(広報対応の良しあしのポイントなど他社事例からの学び・教訓をまとめる)
  6. 他社事例を踏まえた対応(公表文の書式作成、模擬会見の実施など考え得る対応策をまとめる)

昨今、地震・台風・豪雨などの自然災害が激甚化しており、実は普段から多くの大手企業が災害に対する影響についてプレスリリースや投資家向け情報開示をしています。これらはトラブル対応の一種です。自社施設や従業員への影響や商品・製品供給への影響、ひいては業績に対する影響の有無など、少し調べるだけで多くの公表事例が見つかるはずです。

自社で発生し得る事象に近い他社の公表事例を探して、上記の6つの要素を資料化した上で、「防災の日」に、経営層や関連部署に資料共有するとよいでしょう。

事例を共有すると、経営層や関連部署が「危機管理は広報も関係する」「災害事象でも公表が必要な場合がある」と明確に認識してくれるようになります。役員・社内の広報に対する理解につながります。さらに、資料に盛り込む6つ目の要素「他社事例を踏まえた対応」の中で、危機管理広報の取り組みとして強化したいこと(例:マニュアル整備、模擬記者会見の実施など)を盛り込んでおけば、取り組みの必要性を根回し・合意形成するツールにもなります。

こうした事例の共有は、危機管理広報のうち、もっとも「一歩」を踏み出しやすい取り組みです。関東大震災から100年の防災の日をきっかけに、まずは一歩を踏み出して、会社を守ることにチャレンジしてみてください。

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著者プロフィール

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株式会社タンシキ  代表取締役
秋山 和久

媒体側(記者)、受注側(PR会社・Web制作)、発注側(事業会社)の3つの立場を経験した社内・社外広報コンサルタント。戦略・計画策定、組織づくり、活動評価、実務の助言等を行う。広報専門部署の支援から、総務が広報を兼任する企業の支援まで多数の実績あり。

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