月刊総務プラス

『月刊総務』本誌記事:

【総務の現場から】
全学体制で女性活躍推進に取り組み 5年間で女性教員比率を2.5倍に

2017-06-16 13:24

「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」を建学の精神として、1927年に設立された芝浦工業大学。2012年から、女性活躍推進に本格的に取り組み、5年間で女性教員比率を2.5倍にした。その成果を生んだのは、トップの強いリーダーシップはもちろん、実態をデータによって可視化した意識啓発活動だった。

取材・文◎石田ゆう子

工学系女子を増やすためまずは女性教員を増やす

 現在、「世界に学び、世界に貢献する理工学人材の育成」との人材育成目標を掲げる同大学。2013年、創立100周年に向けた大学の中長期行動計画の中で、ダイバーシティ推進先進校を目指し、女性活躍推進に取り組むことを発表。その背景について、同大学学長補佐 男女共同参画推進室長 大学院 工学マネジメント研究科 教授の國井秀子さんは、「日本は女性教員や研究者が非常に少なく、産業界のニーズからしても、技術系の女性があまりにも少ない。エコシステムを回すには、理工系分野の女子学生から増やさなくてはなりません」と説明する。やはり女性教員が少ないと、女子学生は入りにくいし、相談する相手にも困るという状況になる。そのためにはまず女性教員を増やすことで女子学生を増やし、社会に女性技術者を輩出していく。それが同大学のミッションだ。
 
 「もちろんスーパーグローバル大学としては、女性教員比率30パーセントの長期目標を掲げていますし、それ以前から、女性研究者を増やして、グローバルに通用する国際的にランクの高い大学にしていこうとの流れはありました。それがここにきて加速している理由の一つに、深刻な人材不足の中、やらなくてはいけない重要なことだと、産業界側のニーズを認識する人が増えてきたこともあります」
 

育休中でも研究が回るよう研究支援員がサポート

 実際に取り組むにあたっては、男女共同参画推進室を開設。KPIを設定し、学長がリーダーシップを取り、強く推し進めていった。また、文部科学省科学技術人材育成費補助事業「女性研究者研究活動支援事業(一般型)」に採択され、3年間実施したのも大きかった。「この事業をきっかけに、女性教員の学科ごとの数なども把握し、共有できるようになりました。意識改革を進めるにも、まずはデータで実態を示すことは大切です」。事業としては、(1)女性研究者の活躍、増員を促す環境整備、(2)出産、育児、介護などの事情を抱える女性研究者への具体的支援、(3)理工系分野を志向する女性研究者増員のための活動などに取り組んだ。「たとえば、育児などで時間が制約される女性研究者に対して、大学院生を研究支援員として配置。本人が休んでいる間も研究は回っていくようにしました。とても好評です」。
 
 こうした活動の結果、本務教員の女性比率は、取り組み前の2012年度の6.2パーセントから、2015年度は12.3パーセント、2017年4月には15.7パーセントとなり、5年間で2.5倍となった。
 

ポジティブ・アクションに対する理解促進がカギ

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 成果を上げるために大切だったのは、全員がこの問題が重要であると認識することだったという。「女性教員を増やすには各学科の採用を実質的に決める人たちに動いてもらわなければなりません。現場がやらなくてはいけないという雰囲気になるよう、啓発活動に力を入れました」。まずはシンポジウムやパネルディスカッションで意識の啓発をはかり、大学としての数値目標を各学科に落とし込んでいった。「データで実態を見せれば、みなさん納得はされます。そこから各学科を一つひとつ回って、『いつまでにどうしましょうか』と話をし、各論での施策を考えてもらいました」。
 
 一番のカギとなったのは、ポジティブ・アクションへの理解だ。「ポジティブ・アクションをしない限り、これだけのことはできません。元々、大きなハンディがある中で、『はい、平等です』といっても変わらない。そこは是正措置を取る必要があります。しかし、このことを理解されていない人が、男性だけでなく女性教員にも多いのです」。ある程度のポジションにある女性ほど、「自分の力でここまできたのに、特別措置を取られたと思われたくない」と考えるケースが多いという。そうした相手に対しては、データを示し、これだけのギャップがあるということは環境的に問題があるということ、特別措置を取らないとフェアな環境にはならないと理解を促した。「あなたはできたかもしれないけれど、みんなに同じチャンスがあったわけではない、と。あなたにはロールモデルになってほしいというような話をしていく。すると『実はこんなことをいわれた』などの相談も出てくる。そこに対してきめ細かく対応をしていく。起きた事象をご説明いただければ、『こうすればいいですよ』との話もできますから」。
 

女性教員同士も結びつけて持続的な取り組みに

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 今後も、女性教員比率30パーセントを目指して取り組んでいくが、簡単なことではない。時代や環境によって、大学の方針も変わるかもしれない。そうなっても変わらず取り組みを持続できるよう、女性教員のネットワーク作りにも力を入れていく。「女性教員を集めて、研究内容を紹介し合う交流会も行っています。異分野同士のイノベーションが期待される今、そうした交流会の中で新たな研究テーマを見つけられたら、とのねらいがあるのですが、ネットワーク作りの一端にもなっています」。
 
 ちなみに、同大学では、まだロールモデルが少ない工学系女子を育成する目的で、女性教員と女子学生による「工学女子を育てよう!プロジェクト」も実施している。その一環として、女子学生が近隣の女子中学生にロボット作りを指導する講座を、港区立男女平等参画センターと共催し、好評を得た。こうしたアプローチも通じて工学系女子を増やし、社会で活躍する女性技術者を増やす。エコシステムが回るようにしていきたいと考えている。「私たちの最終目標は、女子学生を増やすことですが、それにはもう少し女性教員を増やさなければ。これからもデータをしっかり取り、個別に対策を考えながら取り組みを続けていきます。娘さんがいらっしゃるエンジニアのみなさんには、ぜひ工学系に進むよう、その楽しさを伝えてほしいですね」
 
※『月刊総務』2017年7月号P42-43より
 

【法人DATA】

学校法人芝浦工業大学
本部:東京都港区芝浦3-9-14
設立:1927年
理事長:五十嵐久也
教員数:322人(2017年5月1日現在)

芝浦工業大学
学長補佐
男女共同参画推進室長
大学院 工学マネジメント研究科 教授 國井秀子さん
くにいひでこ●お茶の水女子大学理学部物理学科卒、テキサス大学コンピュータサイエンス学科にてPh.D.取得。元リコーITソリューションズ取締役会長執行役員。現在は、本田技研工業社外取締役などを務める。趣味は「今はお休み中の日本舞踊や社交ダンス。時間ができたらまたやりたいですね」。