総務の現場から

「時間も場所も働き方は自分で選ぶ」 これからの新しい働き方を実践

月刊総務 編集部
最終更新日:
2018年02月19日

ウェブサイト構築のプラットフォーム「Movable Type」を主力製品に、ネットを活用した製品、サービスを提供しているシックス・アパート株式会社。2016年8月より、出社不要という新しいワーキングスタイル「SAWS(サウス)」を導入。現在、35人の社員全員がテレワークを実践している。そのねらいや効果をうかがった。

取材・文◎石田ゆう子

最初に取り掛かったのは出社する理由をなくすこと


シックス・アパート株式会社 事業開発,シニアコンサルタント 作村裕史さん
シックス・アパート株式会社 事業開発,シニアコンサルタント 作村裕史さん
さくむらひろふみ●2011年、同社主力製品のクラウド事業立ち上げをミッションに中途入社。現在、経営企画も兼務。「オフには2歳半となる娘と遊んだり。また、テレワークにしてから、地元の人との交流が増えました。近所のパパ友で集まっての異業種交流会を楽しんでいます」。

SAWSとは、「Six Apart(SA)らしい、 Working Style を実践する」との意味を込めて付けられた、同社の新しい働き方の総称。その特徴の一つは、全社員が、全勤務日、その日の業務内容に合わせて、自由な場所で働けること。自宅でもコワーキングスペースでもカフェでもかまわない。

「もちろん会社で働くこともできます。ただ、現在のオフィスはフリーアドレスとなっており、全員分の席はありません。実際、オフィスにいるのは10人くらいです」と、事業開発 シニアコンサルタントの作村裕史さん。

そもそもSAWSは、2016年6月、同社がEBO(Employee Buyout:従業員買収)を実施したことに端を発する。自らの意思でビジネスを進めていける体制での再スタートにあたり、自分たちらしい働き方をゼロから考えたという。

「当時の私の通勤時間は片道約2時間。この時間をもっと有意義に使いたい。通勤を減らして生活の質を上げることで、仕事の質も上げられるのではと考えていました。独立後初めての社員総会で経営陣から提案されたのは、会議室とフリーアドレスの席を10席ほど用意した、必要なときだけ出社すればよいオフィスです。私も含めたほとんどの社員がこの提案に同意し、普段は“テレワーク・必要なときのみ出社”という働き方が始まりました」。

どこで仕事をしてもいい。オフィスを縮小し、浮いたコストはテレワークのために投資しようと考えた。ただ、問題もあった。たとえば、給与明細書の受け取りや経費精算はどうするか。これは、クラウド型の労務管理ソフトや経費精算システムを導入することで解決。

「立て替え経費の支払いも銀行振り込みか、アマゾンのギフト券での精算を選べるようにしました。手数料が掛かる銀行振り込みに対し、アマゾンのギフト券は少額の精算でも手数料不要でぴったりの金額を送ることができます。課題をすべて解決したわけではありませんが、小さな工夫で、会社に行かなくてはいけない理由を一つひとつ減らしていき、でき上がったのがSAWSです」。

オンラインとオフラインで意思疎通はより繊細に

sixapart01.jpg

出社不要という新しい働き方を始めてから1年半。社内のミーティングなどは、意思疎通をはかる分には、チャットツールなどを使って問題なく行える。それでも、全社員が月に1、2回は、オフィスに来ている。社員総会をはじめ、週1のチームミーティングも、月初めのみオフィスで行っている。

3分の1に縮小されたオフィスだが、会議室はしっかり用意されている。「コミュニケーションの6割は、非言語コミュニケーションで成り立っているといわれていますから、たまに会って6割の部分のアップデートをする。逆に、二人きりで相談がしたい場合などはチャットが便利。オンラインとオフライン、使い分けることで、今まで以上に繊細なコミュニケーションが実現できると思っています」。

制度として作ったのはテレワーク手当のみ

制度として作ったのは、1か月1万5,000円のテレワーク手当だけ。この範囲内で、自宅で働いた場合の光熱費やプロバイダー費用、コワーキングスペースの利用代金などを、各自でやりくりをする。パソコンなど、仕事で使う機器は会社から支給されるが、個人的にこだわりたいものなどは、それぞれで購入する形だ。「先に手当として支給することで承認フローや、購買などの業務を軽減しました。また、上限ある手当をどう使うかと考える力を身に付けることで、社員の自律性を促すというねらいもあります」。

ちなみに労務管理については、勤務管理システム上で上司がチェックし、労働時間オーバー気味のメンバーには声を掛ける。会社に来なくてもいい、というだけで、ほかは以前と何も変わらない。変えたことといえば、勤務規定にあった出勤、退勤という用語を、業務開始、業務終了とかえたくらいだ。

取り組みは積極的に発信 連鎖していくことを目指す

同社では元々、節電と新しい働き方の実験を兼ねて、夏場のみ毎週水曜日をリモートワーク推奨日としていた。よって全社員がテレワークには慣れていた。それでも、仕事ぶりが見てもらえない中で、本当に正しく評価してもらえるのかと、不安を感じる人もいた。テレワークを始めた当初は、チャットで、業務開始と終了を宣言する人も多かった。「それが今ではほぼなくなりました。これは、1年かけて、本当に勤務態度で評価されるわけではないのだ、という信頼関係が築かれたからだと思います」。

ではどのように評価をしているのか。プロセス、ポテンシャル、スキルのシェアなど、単純なアウトプットだけでは評価できない。「そこは今慎重に、どう考えていくかを検討しています」。働き方に正解はない。今ある形が正解だとも思っていない。常に新しい方法を探求し続けている。

そうした同社の考えは、SAWSに取り組む上での「3つの思い(1、探求 2、信用 3、感化)」としてホームページ上で公開されている。「信用というのは、クレジット。弊社の場合、テレワークは性善説でやるものではなく、積み重ねによる信用がキーになると考えています」。よって新しく入った人は1か月、業務の研修も含めてオフィスで仕事をすることにしている。

「感化は、SAWSの取り組みについて発信すること。成功も失敗もどんどん発信しながら、進化させていきたい。その一部でも参考にしてくれる会社さんが現れてくれればと考えています」。また、こうした新しい働き方への取り組みは、それ自体が会社のPRにもなる。「初めて」の取り組みは注目され、露出も増えて、長い目で見ればビジネスにつながる。

実際、SAWSは注目を集めている。同社のようにはいかない、といわれることも多いというが、「人材の確保のためにも、テレワークはやった方がいいと思います。まずはできる部署からやってみる。むしろ営業などの方が向いているかもしれません」。いろいろな地域にいる人たちをテレワーカーとして雇用していけば、そこのエリアが新たな商圏になる。同社には現在、長野在住の社員がいる。離れた実家と行き来しながら仕事をしている人もいる。何の問題もない。今後の課題は、社外の人ともオンラインで意思疎通ができるようにしていくこと。「それが、日本の働き方改革の実現には不可欠だと考えています」。


【会社DATA】シックス・アパート株式会社

本社:東京都千代田区神田神保町3-17-15 ヨシダFGビル5F
設立:2003年12月
代表者:代表取締役 古賀 早
資本金:1,000万円
従業員数:35人(2017年12月現在)
https://www.sixapart.jp/


 

続きは無料の会員登録後にお読みいただけます。

  • ・組織の強化・支援を推進する記事が読める
  • ・総務部門の実務に役立つ最新情報をメールでキャッチ
  • ・すぐに使える資料・書式をダウンロードして効率的に業務推進
  • ・ノウハウ習得・スキルアップが可能なeラーニングコンテンツの利用が可能に

※掲載されている情報は記事公開時点のものです。最新の情報と異なる場合があります。

著者プロフィール

g-soumu-editors-portrait-webp


月刊総務 編集部

パンデミック、働き方の変化、情報技術への対応など、今、総務部門には戦略的な視点が求められています。「月刊総務オンライン」は、そんな総務部門の方々に向けて、実務情報や組織運営に役立つ情報の提供を中心にさまざまなサービスを展開するプラットフォームです。


総務の現場から」の記事

2023年03月07日
社員の家族にも手厚い福利厚生で心に響くおもてなし文化を醸成 —— 新日本製薬株式会社
2023年02月01日
自立人材を育む、自己啓発のための特別休暇や企業間複業活動を導入:デジタルホールディングス
2022年12月27日
理念に基づいた採用と制度設計で、エンゲージメントと定着率が向上 —— 株式会社ノースサンド
2022年11月29日
人となりまで伝わる社員紹介企画で部門を超えて「TSUNAGARU」会社に —— シスメックス
2022年10月31日
50年前から健康に投資。コロナ禍でサンスター体操の開発など新施策も
2022年09月29日
「北風と太陽」を原点にした企画で、新たな施策を浸透させる戦略総務
2022年08月26日
社員の体験価値を最大化する部署 エンプロイーエクスペリエンス部
2022年07月27日
移転で業務を再設計、DX化も推進。「従業員のためのオフィス」へ――グリー株式会社
2022年06月23日
部署も役職も超えて人と人で紡ぐ 「ヨコイト」ファミリー制度を導入――シマダグループ株式会社
2022年03月17日
遊休席は減らして、交流の場を広く。アイデアが生まれるオフィスに改革
2022年02月09日
積極的なSNS運用で採用に効果 インフルエンサー社員には手当も
2021年11月17日
「やる気ボタン」など独自の施策でエンゲージメント向上
2021年10月25日
今の変化を恐れず、働き方を多様化 オフィス縮小移転、週4正社員も
2021年10月06日
心身の健康が企業価値を向上させる ウェルビーイング経営を実践
2021年08月20日
自由な発想で社内外のファンを増やす 新入社員だけの「おもてなし課」
2021年07月21日
デジタルサイネージによる情報開示で社員の「自律自走」をあと押し
2021年06月14日
オンラインだからこそ実現できたコミュニケーション施策とCSR活動
2021年05月17日
ゲーム感覚でスキルアップができる リモートに適した評価制度を導入
2021年04月13日
「脱」オフィス・ハンコ・出社でニューノーマル時代の働き方を構築
2021年03月12日
社員と家族の生の声を聞くために「社員の子供だけの会社」を設立
2021年02月15日
ポジティブ広報でみんなを味方に。社員と作る「みんなのオフィス」
2020年12月10日
国内大手の管理部門系BPO企業が管理とサービスを両輪に総務を改革
2020年11月13日
リモートとオフィスの利点を融合。「ハイブリッドワークモデル」の実現へ
2020年10月13日
健康支援と働き方改革を両輪に 「KAITEKI健康経営」を実行中
2020年09月11日
リモートワークで増えた対話機会 社員間の理解が深まり関係性も向上
2020年08月11日
ABWを導入した新しいオフィスで安心、安全に、多様な働き方を実現
2020年07月16日
コロナ禍のピンチをチャンスに! ITを生かした次世代入社式を開催
2020年06月11日
タクシー業界のイメージを変える 独自の働き方改革で若手社員が定着
2020年05月18日
訪問看護の現場の声に寄り添った独自の働き方改革を推進
2020年04月10日
業務を洗い出し、不要業務を廃止。業務DXの実践で、生産性向上へ
2020年03月13日
階級も役職もなく、価値観を軸に エンゲージメント高く働ける会社
2020年02月14日
コミュニケーション改革から進める 70年企業のリブランディング
2020年01月10日
子育てと就業の両立を支援する、「子ども同伴勤務制度」を導入
2019年12月13日
社員の家族や友人に感謝を伝え、会社への理解を育むファミリーデー
2019年11月15日
時間と場所という制約から解放された、仕事本位の自律的な働き方を推進
2019年10月25日
会社と組合が理念の下に一致団結! 有休取得率100パーセントを継続
2019年09月12日
ゲーム感覚の残業時間予測制度で、楽しみながら働き方改革を推進!
2019年08月15日
若手社員の早期離職を未然に防ぐ、中立的な「キャリア相談室」を設置
2019年07月12日
緊急対策本部立ち上げ訓練など、多彩な施策で防災意識と知識を向上
2019年06月13日
部門横断の「チームヘルシー」が自発的な活動で健康経営を促進
2019年05月13日
時間に制約ある働き方を疑似体験!「なりキリンママ・パパ」研修
2019年04月11日
ITを駆使して、スマートに働く。ソフトバンク流働き方改革を実践
2019年03月15日
作る過程から会社の思いを共有。従業員巻き込み型のオフィス移転
2019年02月15日
月曜午前中に「営業休」を導入。従業員のやる気も生産性も向上!
2019年01月17日
客先勤務者も含めた全社員で臨む。成長をキーワードにした働き方改革
2018年12月13日
IoTで働き方を可視化&改善。本社内に"最高の集中空間"を開設
2018年11月15日
サテライトオフィスや分身ロボットで、働き方の選択肢がさらに充実
2018年10月11日
健康経営は、働き方改革との両輪で。家族も巻き込むことで推進に拍車
2018年08月16日
学生にも、会社にもメリットがある 個性重視の「ユニーク採用」を実施
2018年07月12日
FAQ形式の社内ポータル導入で問い合わせが減少、業務効率アップ
2018年06月12日
自ら学び、実践し、教えるループで「働きがいのある会社」を実現
2018年05月17日
より健康的で働きやすい環境を整備 ダイバーシティで自走組織を目指す
2018年04月17日
コミュニケーションが活性化し成長するストレスオフな組織作り
2018年03月12日
120周年記念事業で得られた自社への誇りと、つながり力
2018年02月19日
「時間も場所も働き方は自分で選ぶ」 これからの新しい働き方を実践
2018年01月12日
作って終わりにしないオフィス管理 総務主導で取り組む環境維持活動
2017年12月11日
赤十字社の活動をもっと身近に。広報誌と連動させたロビーに改修
2017年11月17日
選べるインターンシップを導入し、主体的に動ける人材の確保を目指す
2017年11月06日
節電キャンペーンでコスト削減 拠出した寄付金で取り組むCR活動
2017年08月17日
会社と従業員を結び、成長につなぐコミュニケーションコーディネーター
2017年07月18日
技術開発と総務が一緒になって「スクラム」で業務を改善
2017年06月16日
全学体制で女性活躍推進に取り組み 5年間で女性教員比率を2.5倍に
2017年05月18日
訓練と実践から常にアップデート 生きた非常時対応の仕組み作り
2017年04月13日
働き方変革をさらに前進させる「退社時間の見える化カード」
2017年03月13日
社員が安心して長く働けるよう育休や妊活支援など人事制度を拡充
2017年02月10日
多様な価値観の社員の声に応えた 選べる勤務制度と進化系オフィス
2017年01月19日
ベンチャーから上場企業への成長を 人と組織作りから支える戦略人事

関連記事

  • エンゲージメントを高めるオフィスの条件とは? 事例から学ぶトレンドを押さえた空間づくり PR
  • 【AI×交通安全運動】111社が共同で事故リスク削減に取り組んだ2か月間……その結果は? PR
  • オフィスの課題解決はデータ収集から 社員の位置情報を自動で管理しフリーアドレスを効率化 PR

特別企画、サービス