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ヤフー・ジャパングループでクラウドとデータセンター事業を展開する株式会社IDCフロンティア。働き方改革を進める同社では、妊娠中、育児中、介護者を対象に、週休3日制などが選択できる勤務制度を導入。また働きやすい環境を推進するため、新オフィスにも移転した。「社員が主役」にこだわるその取り組みをうかがった。
取材・文◎石田ゆう子
4つの勤務形態から選べる「フルサポート勤務制度」
同社が2016年10月に導入した「フルサポート勤務制度」は、妊娠中、育児中、介護者といった対象社員が、(1)週4日勤務、(2)週6日勤務、(3)Fワーク勤務(在宅勤務)、(4)フレックスタイム制の4つの勤務形態から自由に選択できるもの。(1)と(2)は、一週間の労働時間は通常と同じまま。勤務日数によって、一日の勤務時間が少し長くなったり短くなったりするのが特徴的だ。こうした制度の導入は時代の要請もあったが、身近な社員の声がきっかけだったという。
「新卒採用担当の若い女性社員が、子育て中の先輩社員が、毎日慌てて帰るようすを見ていて、自分も含めて、新卒社員が、5年後、10年後、ここで長く働き続けたいと思うだろうか、と。いや、思わないよね、というのが発想の原点でした」と同社コーポレート管理本部 総務部 部長代理の枝松茂幸さんは説明する。さっそく法定を超えて、育休期間を最大2年まで延長し、看護休暇と介護休暇を有給化。さらにわずか6か月間でこの「フルサポート勤務制度」を作り上げた。その際、他社の事例も聞いてみたが、もっとも参考になったのはやはり社員の声だった。「私も子育て中なのでわかるのですが、育児中の社員といっても多種多様。生活パターンも、キャリア形成の考え方も違います。であれば会社はいろいろな選択肢を提供して、本人がベストなものを選択できるようにしよう、とこの制度を作りました。これが最終形ではなく、随時、社員の声に合わせて変えていく制度を目標としています」。
週4日勤務にして生産性が上がる効果も
現在、対象者40パーセント以上が利用中。多いのはフレックスタイム、週4日勤務だ。「通常、週休3日となれば給与は減るものですが、この制度では変わりません。そこが画期的なところです」と話すのは同社取締役の土屋麻美さん。育児や介護といった事情を抱えているときに給与が変わらないのはうれしい。また、以前はよく残業をしていた人が週4日勤務に変えたところ、帰る時間は変わらなかった。つまり残業がほとんどなくなった。「それでもアウトプットは変わっていません。結果的に生産性は上がっています」(土屋さん)。「そうしたことがわかったのもよかった。今後、データが取れて、経営の理解が得られれば、労働時間を減らす、一日八時間、週四日勤務で成果を出す、というのを目指していけたらとも考えています」(枝松さん)。
社員を巻き込みながら進化し続ける新オフィス
2016年11月に移転した新オフィスも、人事制度と同じく、多様性がコンセプトだ。
「どういうオフィスがいいの?と聞くと、みんないうことがバラバラ。ですから、多種多様な働き方に合わせて選べるよう、集中できる作業デスク、プロジェクトごとに自在に変更可能なブース、社員の交流が生まれるようなコラボレーションゾーンなどのコンセプトエリアを作りました。これも作ったら終わりではなく、社員の声に合わせて進化し続けるオフィスをテーマにしています」(土屋さん)。
社員の椅子は、三つの候補から各自に選んでもらい、名刺を付けてセッティング。自分の椅子となれば大事に使う。そうやって愛されるオフィスにしていきたい。それがもう一つのテーマだ。
「コラボレーションゾーンは、総務が管理をしているのですが、総務だけで社員が求めているものを考えていてもアイデアは尽きてしまう。そこで、管理職も職種も関係なしに無作為に選出したメンバーによる“コラボ隊”を結成。彼らにアイデアを出してもらっています」(土屋さん)。
メンバーには、みんなで話し合う機会を増やしてもらえたらと、カフェのチケットをプレゼント。第一期コラボ隊からは、アプリと照明を組み合わせて、会話が盛り上がったときにはライトが暖色系に、逆に気分が下がると寒色系の色になるといった遊び心のある演出が考えられた。
「基本、『こうしたい』と申請すれば予算は出ます。やらされ感が起きるのを心配していましたが、おもしろがってくれているようです」(土屋さん)。
自分たちがかかわったオフィスとなれば愛するようになる。コラボ隊は、四半期ごとにメンバーを一新。移転前、参考のために訪れた企業の総務担当者が「愛されるオフィス作りは社員を巻き込むこと」と口をそろえていっていた。それをまさに実践している。
「社員が主役」との思いで喜ばれる制度をこれからも
新しい勤務制度を導入して約3か月。心配したような混乱は起こらなかった。
「スケジュール管理ソフトで、予定表はみんなに見える形になっていますし、何より周りの人が協力的です」(土屋さん)。
そもそも育児中の社員に理解のある社風。「男性が育休なんて」という時代から、1年間の育休を取った男性社員や、年度初めに3か月間休んだ管理職もいた。フルサポート制度も「ついにここまできたか!」と歓迎するような形で受け入れられたという。勤務時間でいえば、全社員が対象の、最大朝7時までの「繰り上げ出勤制度」もある。
このように、さまざまな時間帯に働く社員が増えているが、「元々、営業は外に出ていたり、運用はデータセンターにいたりと、みんながずっとオフィスにいるわけではない。コミュニケーションエラーは発生していません」(枝松さん)。
ややもすると制度は人事の独り善がりなものとなってしまいがちだが、同社が事業拡大に向けて人を増やしていくためには、より企業の魅力を打ち出していく必要があった。そうした中で生まれた「社員が主役」との考え方が浸透。
「社員目線で考えて、使える制度を作る。だからうまくいっているのだと思います」(土屋さん)。
「制度作りは10出して1つ通ればいいくらいの気持ちで、新しいことを仕掛けているのだ、との思いでやっています。たいへんでも苦ではありません」(枝松さん)。
※『月刊総務』2017年3月号P44-45より転載
【会社DATA】株式会社IDCフロンティア
https://www.idcf.jp/
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