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1887年の創設以来、都内の赤十字活動を担っている、日本赤十字社東京都支部。昨年、長年の課題であったオフィスの改修と運用改善に取り組み、訪れる人にも、働く人にも寄り添う空間に一新。また創設130周年を迎えたことを契機に、中長期計画「近未来ビジョン130」を策定した。プロジェクトチームのみなさんにお話をうかがった。
取材・文◎石田ゆう子
一階は広報誌と連動させた情報発信とくつろぎの場へ
赤十字のスローガン「人間を救うのは、人間だ。」の下、都内の赤十字活動を担っている日本赤十字社東京都支部。同支部は1991年に現住所に新築移転。以来、26年間、ほとんど手を掛けていなかったオフィスの改修と運用改善に着手し、一階エントランスフロアを大リニューアル。
「もっと赤十字を日常に感じてほしい」との広報誌『NT』のコンセプトを空間に落とし込み、「NT Lounge」を誕生させた。総務部会計課長の市川浩二さんは、「広報誌の誌面やホームページ、SNSなどとも連動した展示を継続展開し、コンセプトがより伝わる空間を目指しています」と説明する。
そもそもの改修の目的は、「もったいない、です。せっかくのガラス張りの開放的なスペースが利用し切れていなかった。外からはなんだか入りづらい雰囲気で、何をしている施設かもわかりにくい。そこを明るい雰囲気のオープンなスペースに変えました」と総務部企画課長の本多貴久さんは話す。
また、現状では同支部を訪れる多くは支援者や講習受講者。そうしたお客さまがリラックスでき、コミュニケーションが生まれる場にもしたいと、約100万円という低コストで椅子を替え、ソファも置き、ナチュラルなカフェのような居心地の良いスペースに仕上がった。実際、「ここができてよかった」との声が多く、活用されている。
もう一つ、外から見えることを生かして、同支部の活動を表現する場とすることも目的だった。置き家具のみの構成で空間を広く使えるようにし、イベントや報告会、講習会などにも利用できるようにした。ここで実施されたイベントは広報誌でも紹介し、連動性を持たせている。
とはいえ、押し売り的なPRにはならないよう、あくまでも、これまで赤十字と接点がなかった人にも、自然な形で赤十字に触れてもらえる場所になることを意識して運営している。今後は、同支部が開催するセミナーなどのほか、無料ビジネスラウンジとしても展開。BtoBの企業間交流などにも使ってもらいたいとの考えだ。
「使っていただくことが、何よりのPRになります。50人程度まで対応できるスペースですので、ぜひご利用ください」(市川さん)。
3階執務室は生産性とおもてなしも考えた空間に
3階執務室にもさまざまな課題があった。電話などの配線は乱雑な状態で、景観的にも安全性にも問題があった。またフロアカーペットも汚れが目立ち、衛生環境にも懸念があった。
さらに今年2月、全社統一のネットワークに切り替えられたことへの対応、Windows Office365 導入によって得られた自由度を生かすためのノートPCへの更新も。
「加えて、職員にとって働きやすく、ストレスが軽減される環境にしたい。また、訪問者をおもてなしできる場や、部署を超えたミーティングがすぐできるようなスペースも作りたい、と、半年をかけてリニューアルに取り組みました」(市川さん)。
基本的にお金はかけず、工夫によって良いものを。専門家に任せ切るのではなく、プロジェクトメンバーが、家具メーカーなど協力企業に話を聞いて回り、セミナーなどにも参加。働き方改革にもつながるソフト面についても知見を深めながら検討していった。
総務部会計課用度係長の杉浦重好さんは、「ほかの企業を見に行って、最近のオフィスというのはこんなにもフラットで明るい雰囲気なのか、と。こういったオフィスであれば、気持ちも行動も変わるだろうと実感しました」と振り返る。
そうしてできた執務室は、中央に管理職の席をまとめることでフロアを回遊する動線を生み出し、窓際にはお客さまを迎えるファミレスブース席や、打ち合わせスペースを創出。動線上にあるので利用しやすく、コミュニケーションが生まれやすくなっている。また、管理職の席を中央に集めたことで、互いに話がしやすく、稟議も通りやすくなったという。既存什器も他フロアに転用するなど再活用している。
今後は、グリーンを置くことでのストレス軽減や、「本日の終業時刻予定」ボード活用による働き方改革にもチャレンジしていく。
複合機更新をきっかけにコスト削減意識も向上
複合機の更新を機に、カラーと白黒コピーの使い方改善にも取り組んだ。総務部会計課主事の竹松美沙さんによると、「導入時に初期設定を白黒にし、カラーと、白黒、二色刷りのコピー料金比較を張り出すなど、全員のコスト意識に働きかけました。結果、8月、9月の2か月間のカラー使用割合は、対前年比で20%減少。全体の使用量も18%減少しました」。
また、職員互助会の運営で「プチ・ローソン」を導入した。これは、自分たちで自分たちの働く環境を改善していこうとの取り組み。コンパクトなスペースに、お菓子やカップラーメンなどが置かれ、決済は電子マネー。安定的な飲食物の提供は安心感につながる。災害時の食料保管も兼ねられる。職員からは好評だ。
「近未来ビジョン130」で10年軸の活動指針を提示
今年、130周年の周年行事と連動を掛けて、10年軸での中長期計画「東京支部近未来ビジョン130」を策定した。目指す10年後の姿を「様々なパートナーと共鳴し、社会の共感を得ながら、人々に信頼され、安全、安心を与え続けられる存在」とし、「災害と向き合う。人の力を集める。社会と共生する。未来につなぐ」との4つのビジョンにまとめた。
「10年後という距離感の近い目標を作ることで、赤十字社の崇高な理念を、もう少し職員の日々の仕事に結び付けられるようにしたい。そんな思いもあって作りました」(本多さん)。
今後も同支部では、“ヒタムキに、ジミチに”人が支え合う安全、安心な社会の実現に取り組んでいく。
【会社DATA】日本赤十字社 東京都支部
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