月刊総務プラス

『月刊総務』本誌記事:

【総務の現場から】若手社員の早期離職を未然に防ぐ、中立的な「キャリア相談室」を設置

2019-08-15 15:15

最新のIT技術で企業の課題を解決するSIer、株式会社エーピーコミュニケーションズ。同社では、上司や人事に内緒で相談ができる「キャリア相談室」を設置。若手の早期離職を未然に防ぎ、管理職の部下育成支援でも成果を上げている。第4回ホワイト企業アワードでも高く評価されたその取り組みについて、担当者にお話をうかがった。

取材・文◎石田ゆう子

キャリアパスを描けない若手の離職問題がきっかけ

 常駐技術支援事業を中心に、エンジニアのためのオリジナルプロダクト開発も手掛けている同社。社員の9割がエンジニアで、8割が顧客先に常駐。「エンジニアとお客様を笑顔にする」とのビジョンを掲げているが、これは、最前線にいるエンジニアがハッピーにならない限り、お客さまをハッピーにすることもできないとの思いから。また、人材不足が深刻なIT業界。同社も例外ではなく、新卒も含めた、20代の未経験者採用も積極的に進める中で、社員の教育、キャリア開発支援にはとても力を入れていた。「しかし、若手社員に話を聞くと、明確なキャリアパスを描けない人が多く、それが早期離職につながっていた。それを未然に防ぎたいというのが、キャリア相談室立ち上げのきっかけでした」と、組織能力開発部 キャリア相談室 セクションリーダー 国家資格キャリアコンサルタントの池田幸恵さんは話す。一方、管理職は自身もエンジニアの仕事をしながら部下の管理をしなければならず、キャリアなどの深いところまで話せるような信頼関係を築くには時間が足りなかった。そのサポートのためにも、2018年、「キャリア相談室」を設置することとなった。
 立ち上げに当たっては、キャリア開発の先進的企業にヒアリング。そこで得た学びから、安心して相談してもらうには人事部門から切り離した方がいい。査定も評価もしない、あくまでも中立的な組織にすることとした。また、設置しても面談者が来ず、なかなか機能しないと聞き、20代社員のキャリア面談を必須に。入社1年未満の社員は、入社3か月、6か月、1年後の年3回の面談を受けることを必須とした。今年からは、対象年齢を35歳まで拡大している。

査定も評価もしないから、本音で話せるキャリア面談

 キャリア面談は、1人約1時間。国家資格キャリアコンサルタントを持つカウンセラーが話を聞く。現在、キャリア相談室は、前任者から引き継いだ池田さん1人。常駐先との面談はスカイプや現場に出向いても行っているが、「面談のために」と、本社に戻ってきてもらう、いいきっかけにもなっている。「面談で大切なのは、中立的立場を貫くこと。『そうなんだね』と伝え返すことで本人の言葉を引き出し、答えの誘導は極力しない。初対面の人には、まずは自分がどういう人間なのかを話をして、信頼関係を作っていく。「『本当に聞いてくれている』と思うと、少しずつ話してくれるようになります。それと、言葉に愛がないと伝わらないのでそこは大切にしています」。面談の内容は絶対に他者には話さない。ただし、状況によっては、「この内容だけは会社側に伝えてもいいですか?」と、一語一句、本人に了承を得てから伝えている。また、面談内容は文字に起こして、本人にフィードバック。「この言語化がとても大事。なんとなくモヤモヤしていたことが文字を読むことで、『ああ、自分はこう考えていたんだな』とわかってきます」。

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9割以上が面談に満足。離職リスクを未然に防止

 初年度は、20代81人の面談を実施。26人の離職リスクを防ぐことができた。ある若手社員は、このままではキャリアが頭打ちなので転職をしたいと話していたが、本人の了承の下で事業部とも話をし、「この会社でもやっていける」という考え方に変えることができた。また、ある人はジョブローテーションを実行することで離職せずに済んだ。面談後のアンケートでは、95パーセントの人が、面談に満足し、気持ちが前向きに変化したとコメントしている。一度、利用価値を感じてもらえれば次につながる。最近では、自発的に面談に来る人も増えた。「1年やってきて定着してきたのかな、と感じています」。こうした成果が評価され、第4回ホワイト企業アワードの人材育成部門を受賞している。
 ほか、キャリア相談室の取り組みとしては、20代社員を対象にしたキャリアデザイン研修を実施。強み診断ツール(ストレングスファインダー(R))を使って、グループワークでそれぞれの強み、弱みを整理。その強みを、いかに仕事に、キャリアに生かすか。行動計画を立てられる場になっている。これも今年からは、対象年齢を35歳までに引き上げた。

管理職と部下の対人関係の質を向上させる研修も好評

 一方、管理職向けの部下育成支援施策としては、部下との対人関係の質を向上させるための研修を実施。研修に当たっては、全社員に管理職の日頃の振る舞いについてのアンケートを取った。そのリアルな声を示すことで、コミュニケーションの課題に気付いていなかった管理職の意識改革を促した。研修後は、部下との関係性構築における行動が改善。約80パーセントの社員が、上司に相談しやすい環境に変わってきたと実感している。今後は、さらにコーチングなどの研修を取り入れて、一層部下が安心して相談できる関係性構築を目指していく。
 キャリア相談で得られた社員の声は経営にとっても貴重なもの。守秘義務は担保しながらも、それをいかに全社施策に反映していくかが今後の課題。「私自身の課題としては、コーチングなどを学んで、相談者の満足度が向上するような引き出しを、強みを増やしていきたい。面談後のアンケートでは、正直、グサッとくる意見もあります。でも、それがあるから私も成長できる。また、中立の立場にいることで経営の視点も現場の視点も持てる。考え方が広がる。そこがまたおもしろいところです」。
 今後、管理職のスキルが上がり、1on1でキャリアの相談もできるようになっていけば、相談室の利用は減っていくだろう。「とはいえ、いつでも駆け込める場があるという安心感は大事。キャリア相談室は、みんなの駆け込み寺であり続けたいと思います」。

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【会社DATA】
株式会社エーピーコミュニケーションズ
本社:東京都千代田区鍛冶町2-9-12 神田徳力ビル3F
設立:1995年11月16日
代表者:代表取締役社長 内田武志
資本金:9,250万円
従業員数:376人(2019年4月現在)
https://www.ap-com.co.jp/


株式会社エーピーコミュニケーションズ
組織能力開発部 キャリア相談室 セクションリーダー
池田幸恵さん
いけだゆきえ●金融機関、青年海外協力隊での活動などを経て2008年入社、未経験でエンジニアに。2018年から現職。国家資格キャリアコンサルタントを持ち、キャリア面談は今年だけですでに80回を数える。オフの楽しみは、5歳と小4の娘さんとたわむれること。「主人がアウトドア派なので、夏はキャンプに連れ出してもらいます」。