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相談室

法務関連 / 知的財産権・著作権 / 知的財産権・著作権

相談は12/5をもって終了させていただきました。

求人誌に退職した社員の写真を掲載してしまった。賠償金を支払わないといけない?

いつも勉強させて頂いてます!

質問内容ですが、無料求人誌にパート募集で掲載しました。
その原稿にパートさんの集合写真も掲載したのですが、
誤って退職した人を削除しないで掲載してしまい、
その人から「肖像権の侵害」で労基に訴えますと言われてしまいました。

ちなみに退職されてから1週間後の掲載でしたのでした。

このような場合、会社側から賠償金は
支払わないといけないのでしょうか?

先生からの回答

回答者:
北岡 大介先生

ここ数年、個人情報に対する認識が労使ともに様変わりしました。
以前であれば、今回頂いたようなご質問自体
考えられなかったのではないでしょうか。

大変難しいご質問ですが、まず人事労務の立場から
ご回答させていただき、その後、公的労使紛争にいたった場合については、回答に代えて若干の論点整理をさせていただくこととします。

まず許諾なく退職後に本人の写真を求人誌に掲載したとのことですが、
その多くは次の対応で円満解決するのではないでしょうか。
第一 本人に対し誠意をもって謝罪する。
第二 次回以降の求人誌写真差し替えを手配し、本人に対して説明を行う
第三 今後、求人誌に在職社員の写真を掲載する際には、
書面で同意を得ておく。退職後の取扱いについても、
そこで明らかにしておき、同意を得るルールづくりとする。
 
金銭的な賠償の問題ですが、そもそも在職社員の写真を
求人誌に掲載する際、何らかの報酬を支払うか否かも、
各社対応がまちまちです(私も顧問先に聞いてみたところ、
無償が大半。中には食事券5,000円程度をお礼として
支払っているケースがある程度)。
いずれにせよ、社員の写真を求人誌等で使わせていただく際、
しっかりと同意を取っておけば、有償・無償いずれでも問題はありません。

以上のご回答で同種トラブルの多くは円満解決すると考えますが、
中には双方の感情がもつれ、「肖像権侵害に基づく損害賠償請求」を
公で争う場合もない訳ではありません。
次にその問題について、少しばかり考えてみたいと思います
(実際の対応については、顧問弁護士等にご相談ください)。

まずご本人が「労基署に訴える」と主張されているとのこと。
労基署は労働基準法、労働安全衛生法などを担当している役所であり、
同署が扱う法律中、「従業員の肖像権侵害」について
定めたものはありません。
したがって、労基署は同トラブルについては門外漢となりますが、
気の利いた担当官であれば、労基署の上部組織である労働局を
紹介するやもしれません。

現在、労働局では、従業員と会社側のもめごとの間に立って
助言・指導をしたり、あるいは調停等のサービスを行っています
(労働局 紛争調整委員会等)。
ここでは募集・採用を除くあらゆる労働問題の斡旋等を
行うこととしていますので、先のトラブルも斡旋対象となります。
また労働局とは別に、ご本人が裁判所に労働審判あるいは
民事訴訟を提起することも当然ながら可能です。

ここまでが入口論ですが、問題は同パート社員の方が主張される
「肖像権侵害」を理由とした損害賠償が認められるか否かです。
まず肖像権自体については、(憲法13条によって)
「保護される国民の私生活上の自由は、肖像権と称するか
どうかは別として、承諾なしにみだりに容貌等を撮影されない自由を含む」
(最大判昭44.12.24刑集23-12-1625)とされており、
法的保護に値いすることに争いはありません。
しかし、承諾なく撮影され、あるいは同撮影されたものを
公表されたことが即ち、民法709条の不法行為に該当し、
損害賠償義務が生じるとは限りません。
損害賠償義務が生じるためには、「故意または過失」による
違法な肖像権侵害とともに、同侵害に伴う損害の発生(因果関係)、
損害の有無(慰謝料)等が問題となります。

過去の裁判例が一定程度積み重なっているのであれば、
損害額含め「相場観」を割り出すことも可能やもしれませんが、
残念ながら、私が調べた限り、先例としては刑事被告人の
肖像権侵害(法廷での違法な写真撮影とその掲載等)に対する
損害賠償請求事案などが目につく程度でした
(賠償額の相場については、専門の弁護士にご相談ください)。

人事労務の立場から改めて、ご質問の件を考えると、
何よりも写真撮影・利用時の本人からの同意に尽きることとなります。
今後も同種トラブルが生じる恐れは、どの会社においても
ありうることから、本Q&Aをご覧になられた
他社担当者様におかれましては、
同意ルールの徹底確認をお勧めするものです。

北岡 大介
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